米国の人気歌手テイラー・スウィフトのツアーチケットの販売に、ダイナミックプライシングが採用されたことが昨年から米国で話題になっている。
ダイナミックプライシングとは、消費者の需要の強弱を見ながら、アルゴリズムが販売価格を頻繁に調整する手法のことをいう。以前から飛行機の搭乗券販売にそれは見られたが、米アマゾン・ドット・コムが2013年に1日平均250万回以上も商品の価格を改定していたことが明らかになってから、多くの小売業で導入が進められた。
当コラムでも以前紹介したが、米国では百貨店の実店舗で電子タグを用いたダイナミックプライシングが始まっている。サンディエゴのパブでは、ビールやウイスキーの価格が客の需要にリアルタイムで反応するシステムが採用された。そういった世界では、経済学の「メニューコスト」(メニューの書き換えは費用を伴うので価格は頻繁には改定されない、という理論)は死語といえる。
音楽業界では従来、チケットが瞬時に完売となることはアーティストの名誉とされてきた。しかし、「瞬時に完売」とは、価格設定が誤っていた(安過ぎた)と解釈することもできる。
それを背景に、人気アーティストのチケットを狙った組織的なダフ屋行為が近年激しくなっていた。インターネットでの販売開始と同時に一挙に大量のチケットを購入するシステムを稼働させ、押さえたチケットを転売サイトに流して巨額の利益を得る業者が現れたのだ。ダフ屋の稼ぎは本来アーティストが得るべきではないか、という主張は正論といえるだろう。