好奇心旺盛な金委員長の
一面を引き出したトランプ大統領

 トランプ大統領と金委員長の首脳会談で印象的だったのは、署名を終えた両者が外に出て、大統領専用車ビーストに近づき、大統領がスタッフにドアを開けさせて、専用車の中身を見せたシーンだった。

  ビーストの内部は、本来は大統領の警護上かなりの機密事項だ。トランプ大統領は、これまで鋭く対立してきた北朝鮮のトップに、その車内を見せたのだ。金委員長は興味深そうに中をのぞき込み、トランプ大統領に笑顔を見せた。その表情は、いつもの独裁者然とした姿とは違い、いわば子どものように見えた。

 同日の米CNNでは、米プロバスケットボール(NBA)の元スタープレイヤー、デニス・ロッドマンのインタビュー映像が流れていた。ロッドマンは、金委員長と親交があることで知られる。

 ロッドマンは、インタビューで、時には涙を流しながら、金委員長像についてこう語った。「彼は米国に行ってみたいと思っているんだ。彼は人生を楽しみたいと思っているんだ」

 ビーストをうれしそうにのぞき込む金委員長と、ロッドマンの言葉が重なった。

 米国への好奇心が旺盛で、あこがれを持つ若者──。

 12日朝の最初の握手の際には、緊張気味でぎこちなかったトランプ大統領が、会談の最後に金委員長のそんな一面を引き出したのは、会談の内実を示すものとして興味深かった。

 実際、トランプ大統領は、最初の二人だけの会談の冒頭では言葉少なで、ワーキングランチの際にも丁寧に握手していた。それが、署名式の段になると、場を仕切って記者の問いかけに何度も答え、いつもの“トランプ節”を取り戻していた。首脳同士の信頼関係を築いたことへの自信と満足感が見て取れたと思う。

 両首脳が署名し、トランプ大統領がその場で掲げてみせた共同声明は、要約すれば、(1)米国と北朝鮮は、新たな二国間関係を築く、(2)米国は北朝鮮に体制を保証する、(3)4月27日の(南北首脳会談での)板門店宣言を再確認し、北朝鮮は完全な非核化に取り組むという内容が書かれているに過ぎない。2002年の日朝平壌宣言を経て、2005年の6者協議の際に出された共同声明と比べても、今回の共同文書は具体性を欠き、見劣りするという見方もある。