公務員試験、教員採用試験、会社内の昇進試験の受験者必読。

本連載では、元NHKアナウンサーの超人気講師で、毎年多数の小論文試験合格者を輩出する「ウェブ小論文塾」代表・今道琢也氏の新刊『落とされない小論文』から、内容の一部を特別掲載する。本番直前からでも、独力で合格水準まで到達するスキルと考え方をお伝えしていく。(構成:編集部)

なぜ、書くために「読解力」が必要なのか?

小論文試験で求められる能力とは何でしょうか。構成力、論述力、表現力……。
それらも、もちろん大事ですが、カギになるのは「読解力」です。

文章を書く試験なのに、なぜ「読解力」が大事なのか?
それは、「問題文の意味を理解しないで書いている答案」があまりにも多いからです。
たとえば、次の例を見てください。

【教員試験の想定問題】
あなたはなぜ本県の教員を志望しているのか、その理由を述べてください。

【低評価の解答例(1)】
 私は、教員という仕事を通して子どもたちの力を伸ばし、その成長を支える存在になりたいと考えている。私が教員を目指すようになったのは学習支援の活動をしていた時のことだ。学習の進度が遅く、ずっと「わからない」と言っていた生徒がいたが、何度もつまずきながら繰り返し方程式の解き方を教えると、急に「先生、わかったよ!」と、目を輝かせて熱心に課題に取り組み始めた。その時、粘り強く指導をすれば必ず生徒は伸びるのだと確信し、大きな喜びを感じることができた。子どもたちの力を引き出し伸ばしていくことは大変やりがいのある仕事だ。私自身も常に学ぶ気持ちを忘れず、子どもたちと共に成長していく教員になりたいと考えている。(以上)

この答案は、「教員を志望した理由」については書けていますが、問題文にある「なぜ本県の」という部分に全く着目できていません。

出題する側としては、なぜ、よその県ではなく「本県の」教員を志望しているのか、そこを知りたいという意図を込めて出題しているわけですが、そこに対する答えが何もありません。

では、次のように書くと、どうでしょう。

【高評価の解答例(1)】
 私は生まれ育った○○県に愛着を感じており、○○県の教員となって子どもたちの力を伸ばし、成長を支える存在になりたい。私が教員を目指すようになったのは、学習支援の活動をしていた時のことだ。学習の進度が遅く、ずっと「わからない」と言っていた生徒がいたが、何度もつまずきながら繰り返し方程式の解き方を教えると、急に「先生、わかったよ!」と、目を輝かせて熱心に課題に取り組み始めた。その時、粘り強く指導をすれば必ず生徒は伸びるのだと確信し、子どもたちを教えることに大きな喜びを感じることができた。本県の教育理念の一つ「一人一人の子どもたちに向き合う教育」は、まさに私が実践したい教育のあり方だ。この理念のもと、故郷○○県の教育に貢献することを強く望んでいる。

こちらは「なぜ本県なのか」という部分を押さえながら書いており、出題者の意図を理解できています。ほんの少しの違いですが、【低評価の解答例(1)】よりも、評価は大幅に上がることになります。

もう1つ、別の例を見てみましょう。

小論文試験は「開始5分」で合否が決まる「中身以前」の問題で減点されないために。

「いいことを書こう」とする、その前に

【公務員試験の想定課題】
○○市の活性化のため、他の都市圏からの移住者を増やすために、どのように取り組んでいくべきか。

【低評価の解答例(2)】
 ○○市において、他の地域からの移住者を増やしていくことは大変重要な課題である。近年は少子高齢化の進展とともに、人口の減少が大きな問題となっている。特に若い世代が少なく、住民の大部分が高齢者となり集落の維持が困難になっている。
 そこで今後は、他の都市からの移住者を増やしていくことに積極的に取り組んでいかなければならない。特に近年はスローライフやワークライフバランスといったことが盛んに言われるようになってきている。地方での暮らしをしたい、良い環境で子どもをのびのび育てたいと考えている人は少なくない。大都市圏に住む人たちにとって、○○市の自然豊かな環境や充実した住環境は大きな魅力となるはずだ。また、都市部から地方への移住者を増やしていくことは大都市圏への人口集中を緩和することにも繋がる。国全体の人口のバランスを考える上でも、移住者を増やしていくことは大いにメリットがある。
 このような観点から、○○市としても市の魅力を全国にPRして移住者を増やし、活力のある街を目指していくべきである。

問題で聞かれていることは「移住者を増やすためにどのように取り組んでいくべきか」なのに、この答案はひたすら「移住者を増やす背景、意義」を書いています。

取り組みの内容については末尾の「市の魅力を全国にPRして移住者を増やし」だけで、中身が何もありません。どうやって増やすかという、その「方策」こそが、問われていることです。

では、「移住者を増やすために、どのように取り組んでいくべきか」という質問に正面から答えると、どういう答案になるでしょうか。

【高評価の解答例(2)】
 ○○市において、他の地域からの移住者を増やしていくことは大変重要な課題である。近年は少子高齢化の進展とともに人口の減少が大きな問題となっている。若い世代が少なく、住民の大部分が高齢者となり集落の維持が困難になっている。そこで次のようなことに取り組み、移住者を増やしていくべきである。
 まず、移住しやすい環境を作ることだ。移住の際に不安になるのが、住居や仕事が見つかるかという問題である。市内の良質な空き家を行政が借り上げ、移住者向けに安く貸し出す仕組みを作ったり、公営住宅の空き部屋を安く貸し出したりしていくべきだ。またハローワークと連携して求人情報を提供するなど、就業面でもサポートしていく必要がある。
 移住希望者に向けての積極的なPRも欠かせない。大都市で移住者希望者向けの相談会を開催していくべきだ。また、常に情報が得られるように、市のサイトに移住希望者向けの特設ページを開設して、移住者向けの支援制度の紹介や生活環境などを発信しておく必要がある。
 ○○市が将来にわたって活力を保つために、移住者を増やしていくことは重要な課題だ。市としてこうした施策に積極的に取り組んでいくべきである。

こちらの答案は、第2段落以降で「移住者を増やすための取り組み」がたいへん具体的に書けています。きっちりと、問題文の意味を理解して書いていることがわかります。

このように、答案を書く前に「何が問われているのか?」「何を書かなければいけないのか?」を正確に理解することは、非常に重要なのです。

書いてある中身そのものがよくても、問われていることとズレていたら、採点者から「そんなことは聞いていない」「聞かれたことに十分答えていない」と判断され、大幅に減点されることになります。

当然のようなことをくどいくらい強調するのは、このような答案が、非常に多いからです。私が指導する答案の半数以上が、問題の意味を理解しないままに書かれています。「自分はそんな初歩的なミスはしない」などと、決して思わないでください。

冒頭の【教員試験の想定問題】の問題文をもう一度読んでみてください。

「あなたはなぜ本県の教員を志望しているのか、その理由を述べてください」

この問題文を読んだときに、「ああ、志望理由を書くのか」とサラッと読み流した人と、「『本県の』という言葉がついているな。よその県でなくてなぜこの県なのか、そこがわかるように書かなければいけないな」と気づいた人とでは、すでに大きな差がついています。

試験開始5分の段階で、原稿用紙に1字も書かないうちから、すでに合否が分かれているということにもなるのです。

「問題文の意味を理解しないで書いている」その他の具体例

このほかにも、問題文の意味を理解していない答案は、たいへん多いです。
たとえば、次のようなパターンです。

・「あなたはなぜ本学を志望しているのか理由を述べなさい」と聞かれているのに、どこの大学でも同じように言えることしか書いていない答案。その大学ならではの理由がない。

・「筆者の意見を踏まえ、あなたの考えを述べなさい」と聞かれているのに、筆者の意見を踏まえないで書いている答案。

・「あなたは職場のリーダーとして、これらの課題にどのように取り組んでいくか」と聞かれているのに、「職場のリーダーとして」の視点がなく、一社員としての立場から書かれている答案。

答案を書き始める前に、何を聞かれているのかをよく考えること。
そして、書くべきポイントを整理すること。
これが合格への絶対条件です。
小論文試験でなぜ「読解力」が大事なのか、理由はそこにあるのです。

『落とされない小論文』では、このほか、小論文試験に一発合格する必要最低限の情報を凝縮して伝えています。ぜひ、直前対策に使い倒してください。