引きこもる人々を「働け圧力」でなく「巻き込み力」で活かす事業所「働きたい」と思っても就労できない引きこもり経験者は多い。無理のない社会復帰を手助けするための「場」とは。当事者たちを支援する一般社団法人コンパスの柳井久弥さん(写真中央)

孤立無援を続ける人々の本音
「就労とは別の生き方もいい」

「働きたい」「自立したい」などと思っていても、いきなり即戦力を求められる職場環境のためになかなか就労できず、長期の孤立無業状態に陥る人たちが少なくない。

 自宅にいると「なんで働かないんだ!」と周囲から責められて、追い詰められている人たちもいる。

 ところが、これまで「引きこもり支援」というと、「就労=ゴール」という考え方で行われることが多く、引きこもり経験があったり、社会に戻れなくなったりしている当事者たちの間からは、「就労とは別の生き方があってもいいのではないか」「そもそもゴールが設定されること自体、おかしいのでは」といった批判が挙がっていた。

「はたらく」とは、どういうことなのか。本人の意向を無視して「はたらく=就労」に放り込まれるだけだと、結局、我慢を強いられることも多い。

 労働現場で傷つけられ、また引きこもっては充電し、再び就労させられる日々の繰り返し。そのスキームだけでは、仕事は断続的にできるようになるかもしれないものの、年をとっていくと経済的なリスクが高くなる。

「自分のキャリアや経験を積み重ね、好きなことの延長線上で手に職のようなものを付けられるようになれば、そうしたリスクを回避できる可能性があるのではないか」

 近年、当事者の居場所でいろいろな声が発信されるようになっている。

 そう説明するのは、一般社団法人コンパス(埼玉県)を4年前に立ち上げ、現在は小売業界で働く柳井久弥さん(40歳)。

 柳井さんは、学生時代に生きづらさを感じ、福祉的なことに関心を持つようになった。その経験をベースにこの間、コンパスの活動を通じ、当事者の中に眠っている可能性を見出して、中間的就労の場の構築を目指している。

 6月27日、東京・中央区の日本橋にある就労移行支援事業所「コンフィデンス日本橋」(佐藤恵子理事長)で、柳井さんはビジュアルプログラミングを講義。利用者たちにプログラミングの全体像を知ってもらうため、ドローンやラジコン、自作のゲームを通じて、その仕組みを体験してもらい、勉強してもらった。

 柳井さんは今年4月から、事業所の講座を毎月1回、担当している。この日は、3回目の講座だった。反応がよければ、事業所は来年度以降も柳井さんの講座を続けるという。