要約本文

【必読ポイント!】
◆勝手に決める社員たち
◇好きなことにかける情熱が強みになる

 星野リゾートでは、それぞれの地域の魅力を発掘し、発信し、演出する運営手法を実践している。一例として、青森県にある「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」を紹介しよう。

 同ホテルは、青森県屈指の景勝地であり、国立公園に属する渓流の目の前に位置している。渓流に生える「苔」をテーマにしたプログラムやサービスを充実させていることが特徴だ。

 実は、数年前までは、誰も苔に注目していなかった。観光客の目当ては、渓流散策だった。そればかりか、星野リゾート代表の星野佳路氏ですら「苔の魅力はわからない」と言っていたほどだ。しかし今や、苔は奥入瀬渓流ホテルを象徴する存在になっている。

 その立役者が、自ら「苔メン」を名乗るほどの苔好きで、同ホテルで「苔」をテーマにしたプログラムをスタートさせた丹羽氏である。最初の2年ほどは、宿泊者を「苔さんぽ」(渓流を散策しながら苔を観察するプログラム)に誘っても、期待したような反応は返ってこなかった。それでも彼は、苔に熱中し、苔の魅力を伝え続けた。やがて彼の情熱は、同僚やメディアにも伝播していくこととなる。「苔さんぽ」への参加者が増え始めたことをきっかけに、オリジナル苔玉を作るアクティビティを用意したり、オリジナルスイーツ「苔玉アイス」を提供したりと、「苔」をホテル全体で取り組むプロジェクトへと発展させていった。

 星野代表は、「苔」プロジェクトの成功要因は、現地スタッフが信じる「その地域の魅力」をサービスに落とし込み、最後までやり切ったことだと分析している。その地域の魅力を一番よく知っているのは、その土地に暮らすスタッフだからだ。だから星野代表は、各ホテルの運営方針や提供サービスに関して意見は言うが、最終決定は現地スタッフに任せるようにしている。

◇フラットな組織文化が斬新なアイデアを生む

 2017年、「星野リゾート 軽井沢ホテルブレストンコート」は、まったく新しいウエディングサービスをスタートさせた。マルシェ(市場)のような開放的な空間を用意し、参列者が自由に時間を過ごしながら交流を深め、新郎新婦の門出を祝うパーティを設計したのだ。

 新しい結婚式を提案することを決めたのは、入社以来、15年間にわたってブライダル事業を担当してきた鈴木氏だ。彼の呼びかけによって15人のメンバーが集まり、世代や性別、部門、ポジションの垣根を越えて自由な議論を行った。互いの発言からインスピレーションを得て議論を深化させるうちに、新しいウエディングサービスの骨格が見えてきたのだ。アイデアを星野代表にプレゼンしたところ、彼のアドバイスは「ターゲット世代のスタッフの意見をよく聞いて」ということに尽きた。

 議論が紛糾したのは、料理についてだった。調理担当メンバーから、1人1コースを配膳する通常の結婚式と比べて、多くの労力がかかるという意見が出た。彼らの発言には、「これまでの倍の人数のシェフが必要かも」「シェフを増やしたら、とても利益なんて出ません」などと、否定的なニュアンスが濃くなっていった。それでも、役割の異なるメンバーを交えて議論を進めるうちに、突破口が開いた。

 結果、新サービスはたった3ヵ月で初年度目標を達成した。役割や得意分野の異なるメンバーがフラットに議論した賜物である。何を発言してもいいという安心感があり、自分が得意な分野で活躍すればいいという場が用意されていることで、社員は自由に発言できる。