100年続く同族企業の4代目である星野リゾートの星野佳路代表。自身の事業承継では、先代の父と激しく対立し世代交代を行った経験がある。そうしたことからファミリービジネスの研究を“ライフワーク”として取り組み、事業承継の事情にも詳しい星野代表に、今、日本の中小企業の課題になっている後継者不足・事業承継問題について話を聞いた。(聞き手・構成/ダイヤモンド・オンライン編集部 山出暁子)

星野リゾート代表が語る、事業承継に必要な「潰してもいいからやってみろ」の覚悟星野佳路(ほしの・よしはる)/星野リゾート代表 1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1986年米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。シティバンク勤務を経て91年1月、星野リゾートの前身である星野温泉の社長に就任。以来「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、圧倒的非日常刊を追求した滞在型リゾート「星のや」をはじめ、全国で宿泊施設、スノー・リゾートを展開している。Photo by Yoshihisa Wada

いかに親子が仲良く事業を承継できるか

――星野代表ご自身も事業承継では、先代との対立で「クーデター」とまで言われ、“超ハードランディング”のパターンを経験をされています。事業承継の難しさはどんなところにあるでしょうか。

星野 事業承継はファミリービジネスにおける最大のトピックです。相続税などの話はごく一部であって、一番大事なことは「いかに親子が仲良く事業を承継できるか」。ここで揉めてしまうと難しくなります。

 そもそも、ファミリービジネスは大事なんだということがもっと認識されることが重要です。今、日本の企業数の95%以上が非上場の同族会社であり、日本経済のかなりの部分を支えている。その中で中小・零細企業も多いわけですが、ここの企業がもっと活性化し、成長していくことで日本経済はまだまだ伸びていきます。大手企業がこれから利益を10倍にしていくのはなかなか簡単ではないとしても、中小の同族企業はその可能性は十分あります。同族企業の経営に活力があることは日本の経済成長にとって非常に重要なことなんです。

 そのわりには、これまでの日本の常識・感覚では、家業を継ぐことが「親の七光り」のように言われてしまって、あまりカッコイイことではなかったですよね。あるいは「ロックスターを目指していたけど、ダメだったから家業継ぎます」というように、最後の手段、消極的な選択というイメージが強かった。でも、家業を継ぐことは特定の人にしかできないことだし、かつ、それが日本経済の成長を支える重要なことだという認識がもっと広まるべきだと思います。

――継ぐ人は「日本経済の成長を担うために家業を継ぐ」くらいの意識を持て、と。

星野 そうです。しかも、今、世界的にファミリービジネスの重要性、強さはすごく注目されてきていて、ヨーロッパやアメリカのビジネススクールでも専門の教授が研究して論文もどんどん出され、体系化された理論として教え始めています。ファミリービジネスが強いのは日本とイタリアなどのヨーロッパの一部で、日本以上に世界での注目度が高まっているんです。今後、どんどん研究されてビジネス理論として出来上がっていくでしょう。

 だから日本でも家業を継ぐことがもっと重要視されるべきだし、そのためにも、スムーズに親子が揉めることなく継いでいく方法や考え方が確立されていく必要があると思いますね。

 私自身、先代からの事業承継は、先ほど言われたような“超ハードランディング”パターンで、対立する形となってしまいました。