「個人的に世話になっているということではなく、会社対会社の取引でお世話になっているということなの」と道子が説明する。すると一郎は「こちらが客の立場の場合はどうなのか?それとも取引先だけなのか?」といったように、矢継ぎ早に質問してくる。

「新人だから、いろいろなことが初めてであり、疑問も多いだろうな」と最初は丁寧に応対していた道子だが、一郎のあまりにも度を越した質問攻撃に、教育もなかなか進まないため、質問されるたびにイライラしてきていた。ついに堪忍袋の緒が切れ、怒りが爆発してしまった。

「ちょっとお手洗いに行ってくる」

 道子はこう言って席を離れると、給湯室でカップを洗いながら、きつい言い方をしてしまったことを後悔していた。心配して様子を見に来た佐藤課長が、道子に声をかけた。

「おい、どうした!?」
「すみません、イライラして大きな声を出してしまって……」
「新人に手を焼いているのか?」
「鈴木さん、屁理屈や言い訳が多いので、うんざりしていて……」
「そうか。イマドキの若者は難しいな」
「課長、聞いてください。一昨日も遅刻してきたのに、彼は『すみません』の一言もなく、座るんです。他の人も彼のマナーがないっていないなどと言って来るので、指導には正直困っています」
「エッ、そうなのか!?」と課長は驚きを隠せない。

「だから遅れた時のことで注意したら、『電車が遅延したのに、なぜ僕が謝るんですか?』と反発するんですよ」
「それはひどいな。今度何かあったら、俺からも注意するよ」

 佐藤課長に話を聞いてもらうと、道子は少しすっきりした。

データ入力で苦戦する姿を見て
手を差しのべる道子だが…

 ある日、一郎は中途で応募してきた人の個人情報を会社のデータベースに入力する作業をしていた。手元にある履歴書を見ながら入力していると、首をひねりながら何度も同じ箇所でつまずいているようだった。隣で書類を作成していた道子が心配になって声をかけた。

「鈴木さん、どうしました?」
「あの、このソフト壊れてませんか?生年月日の入力ができないんです」
「え?どこ?」
「(モニター画面で該当箇所を指しながら)この人の生年月日を入力しようとすると、どうしてもエラーになるんです」
「履歴書を見せてくれないかな」