道子は一郎から履歴書を受け取って画面と照らし合わせて見ると、生年月日の箇所に「平成0年」と入っていることに気づいた。

「鈴木さん、元号の平成の右隣の年数の値が『0』になっているからエラーになるのよ。うちのシステムでは数字で入れることになっていて、平成元年生まれの場合は『1』を入力しないとならないの」
「エッ?だって平成元年は0年で入力するでしょ?」
「違うわよ。(紙に書いたメモ:平成元年、2年、3年を見せながら)元年が0で2年が1、3年が2?違うでしょ~」

 道子は大笑いすると、データを再度入力するように指示して、自分の仕事に戻った。

会社に父親からの電話、
課長に替わった途端のクレーム

 翌日、始業時刻になっても一郎が出勤して来ない。「また電車遅延か……」と道子が思っていたところ、鈴木一郎の父親を名乗る男性から総務課に電話がかかってきた。

「息子は気分がすぐれないので、今日は休ませます。実は、息子の教育担当の田中さんの件で上司の方とお話ししたいのですが……」

 佐藤課長に電話を替わった途端、一郎の父が抗議してきた。

「息子は新人だから、いろいろな疑問を持って当たり前だろう。それなのに、教育担当の田中さんから『言う通りにやれ!』ときつい口調で命令された。これはパワハラではないか?」
「息子のちょっとしたミスを皆で大笑いし、精神的に参っている。これはイジメだ」
「電車遅延による遅刻について、皆の前で謝るように強要された」

 佐藤課長は、パワハラやイジメではなく、通常の指導の範囲で、皆の前で笑いものにするようなことはしていないと説明したが、父親は納得していない様子だった。そのため、佐藤課長は明日、一郎本人と面談する約束をして電話を切った。

課長は面談で優しく語りかけるが
新人は自分への指導方法で反発する

 翌日、一郎が出勤すると、佐藤課長は会議室で面談した。

「鈴木さんは田中さんからパワハラを受けたり、イジメを受けたりしたと感じているのかな?」
「田中さんは、いつも悪くないことまで謝らせようとしたり、イライラしたり、僕を笑いものにしたりします。これは嫌がらせではないんですか!?」
「私が見ている限り、田中さんが行き過ぎた指導をしているとは思えないし、鈴木さんが注意されても仕方がない内容だと思うよ。それに電車が遅れて遅刻するなら、なぜもっと早く余裕をもって家を出ないんだ?始業時間に間に合わず、周りに迷惑をかけたんだから、『すみません』と一言謝らないと失礼だとは思わないのかね」