佐藤課長は、優しく噛んで含めるように語りかけるが、一郎は憮然としていた。課長の話が終わると課長をにらみつけながら、こう言った。

「部下を指導する時、相手を誉めて伸ばすのがデキる指導者じゃないですか?田中さんも課長も全く新人を誉めませんよね。誉めないなら、ヤル気が出ません」

 課長は呆気にとられたが、「社会人のルールやマナーがある以上、遅刻をしたらどんな原因であれ、周りの人に謝罪することと、先輩の指導はまずは素直に聞くこと」を伝え、話を終えた。

一郎から届いた1通のメール
指導係の道子の心境は…

 翌日、佐藤課長が出勤してメールソフトを開くと、一郎からメールが入っていた。

田中さんからの嫌がらせに対して、課長から「私が悪い」と言われ、失望しました。ハラスメントを放置していることに加え、管理職としての能力が不足している人や、育成力のない人に新人教育を担当させるなど、会社としての体制に問題があると認識しています。このような会社に未来はなく、両親とも話し合って、自分にはふさわしくないと判断し、本日付で退職させていただきます。なお、直接の連絡は控えていただき、何かあれば父に連絡をお願いします。
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 佐藤課長は驚いて一郎の自宅に連絡を入れたが、誰も出なかった。昼頃、一郎の父親から佐藤課長に電話が入った。父親は、佐藤課長の対応について一方的に責め立て、息子は辞めさせる、の一点張りだった。佐藤課長は話し合いを試みたが、時間の無駄だからと言って全く取り合ってくれず、そのまま退職となった。

 一郎の言動に悩まされていた道子は、「一郎が退職した」と聞き、内心ホッとしていた。それと同時に、今後の新人教育をどのように行えばいいのかという大きな不安も感じていたのである。

 新人教育に頭を悩ませる担当者は少なくない。特に、今まで怒られたり、注意されたりすることなく育ってきた新人の中には、軽く注意しただけでプライドを傷つけられたと感じてしまい、心を閉ざしたり、メンタル不全になったりする者も意外と多い。

「イマドキの若者は……」と言うだけでは何も解決しない。新入社員との信頼関係を築き、言うべきことをしっかりと伝え、気づきを促すような指導方法が求められていると思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。