「会社の先輩で不妊治療している人が多いの。孝志くん(読者男性の名前、仮名)も検査してみれば?」

 正直、面倒くささが先に立って気は進まなかったが、「異常なし」という正式なお墨付きをもらえば今後しつこく言われることもなかろうと思い、検査を受けることにした。

 クリニックで受け付けを済ますと、最初に問診票を渡される。項目は検査のきっかけや喫煙などの生活習慣から、最近の夫婦生活の回数や射精の有無といった、非常に赤裸々な内容にまで及ぶ。

 問診票を提出すると、紙コップを渡され採精室に案内される。そこで男性の検査技師から精液検査の内容について説明を受けた。

 肝心の精液は、マスターベーションで採取する。マスターベーションというからには、自分で精液を採取しなければいけないわけだ。頭では理解しているものの、改めて技師から説明されると、名状しがたい羞恥心が襲ってくる。なぜか、中学生の時の保健の授業を思い出した。

 ここは検査のためだ。割り切って、羞恥心をかなぐり捨てて検査に臨むほかない。

 いよいよ個室に残され採取の時間となる。

 採精室は、2メートル四方ほどの小さな部屋。調光は薄暗い。寝そべることができる簡素なリクライニングチェアと、20インチ弱のテレビが配置されている。

 テレビ台の下に目を向ける。あるのは、成人向けの雑誌が一冊と、同じく成人向けDVDを30枚ほどまとめたケースだ。ご自由に“お使い”くださいとのことだ。

 DVDのジャンルもいろいろ、有名なセクシー女優の名前が入ったものもあれば、“熟女”が題字に踊るものもあり、選者の多趣味ぶりがうかがえる。

 室内やDVDなどの観察に夢中になっているうちに、気づけば時間は入室後15分をとうに過ぎていた。注意事項に20分~30分を超すときは内線での連絡が必要で、場合によっては当日中の検査を断念する場合があると書いてある。残りの時間で急いで採取を終える。急ぎすぎたせいか、後片付けの際のため息が普段より妙に多い気がした。

精子の運動率が基準値以下?
次に勧められた検査はなんと4万円

 検体を残し部屋を後にする。検査結果は1時間で出るというので、一時外出し、その後再度帰院した。

 診察室に呼ばれ、のんきに部屋に入ると、パソコンを眺めていた男性の医者が顔を向けおもむろに切り出した。

「正直、かなり悪いです」