耳を疑った。「大丈夫ですよ」というお墨付きを得るがために受けた検査であり、悪い結果が出ることなど想定していなかった。

 医者によれば、精子の運動率が特に悪いという。精液検査はWHO(世界保健機関)の定める基準値が採用されているそうだが、その正常値が40%以上であるのに対し、結果は28%。なんと、自然妊娠が厳しい水準だという。

「今日受けられて本当に良かった。ここからしっかり治療していきましょう」。まずは詳しい原因を知るために、超音波検査などの精密検査を次にしますと医者は言うが、まだ心の整理はつかない。

 前日の深酒がよくなかったのか。禁欲期間が短すぎたのか。会計の1万円を支払いながら、考える。そもそも、次の精密検査は、自由診療で4万円もするというではないか。果たして言われるがまま、精密検査を受けるべきなのか。

 人は良くない現実を目の当たりにすると逃避するものである。インターネットで調べたところ、「精子の状態はムラがあるので、一度の検査で一喜一憂しなくてもよい」とある。彼女には適当な理由をつけて、そのままなかったことにしようかとも思った。

 しかし、「自然妊娠が難しい」という言葉のインパクトは相当だった。4万円の検査も気になるが、この事実を隠して結婚したとしても、いずれは彼女に分かってしまうのではないか。いてもたってもいられなくなり、別のところで検査、つまりセカンドオピニオンを求めることにした。

ドキドキの再検査
結婚の行方はいかに

 翌週、同じく都内にある別の不妊治療クリニックを受診。こちらはかなり大規模で、それこそ採精室が何部屋もある。

 採精室の内容や、手順こそ変わらないが、渡されるカップがプラスチックだったり、それを入れて持ち運ぶ紙袋が渡されたりと、勝手は異なっている。ちなみに、DVDや雑誌の“品揃え”も異なっている。

 ただ、今回の受診は、前回のように室内を事細かに眺める余裕などない。DVDのジャンルチェックなんておふざけはなしだ。