この期限までに、すべての離脱協定案を、英国やEU加盟各国の議会で通過させる必要がある。このプロセスには相応の時間を要するため、事実上は2018年10月までに、英国側・EU側の交渉担当相の間で離脱協定に関して合意する必要がある。

 だがいまだ、重要論点で合意ができていない状況だ。

北アイルランド問題が「裏目」に
交渉合意ないまま離脱の可能性

 英国とEUの交渉は難航が予想されてきた。

 それでも昨年12月のEU首脳会議では、英国在住のEU市民やEU在住の英国人の市民権保護や離脱の際に英国が払う清算金といった論点で、一定の進展が見られたとして、2018年以降は、第二段階の「英国とEUの将来の関係性」に関する議論を進めることを決めた。

 続く3月には、第二段階のファーストステップとして、19年3月の正式離脱後も、2020年末まで現行ルールを踏襲できるとする、移行期間を設置することで合意がみられ、これらの進展に多くの市場関係者や企業経営者は胸をなでおろした矢先だった。

 残された第二段階の重要課題が、「将来の英国・EUの通商関係」と、「北アイルランド問題」だが、今回のメイ首相の「ソフト離脱」への転換方針は、最大の障壁の「北アイルランド問題」を決着させ、離脱交渉を加速させる狙いが大きかった。

 英領・北アイルランドと地続きのEU加盟国・アイルランド共和国は、現在は英国がEUメンバーなので、事実上国境がないに等しい。だが英国がEUから抜ければ、人やモノの自由な行き来が制限される恐れがある。そこで、新方針では税関検査を不要にする新たな仕組みも導入し、厳しい国境管理を設けずに済むようにするという。

 メイ首相の新方針では、EU離脱後も、英国とEUの間で「財」の移動の障壁をなくし自由貿易圏を作れば、北アイルランドとアイルランドの経済取引もこれまで通りの状況を維持できるという狙いがうかがわれる。

 かつて北アイルランドでは、英国統治を望む支配層の多数派・プロテスタント系住民と、差別や弾圧に抵抗しアイルランドとの統一を求める少数派・カトリック系住民が対立、衝突が繰り返された。

 1998年のベルファスト合意で地域に和平がもたらされたが、これには、アイルランドが1993年にEUに加盟したことが大きかった。英国とアイルランド両国ともにEUメンバーになり、北アイルランドがアイルランドとも1つの国のような状態になったからだが、英国がEUから抜ければ、北アイルランドで対立と「分断」が再燃しかねない恐れがあった。