東京慈恵会医科大学 槍ヶ岳山岳診療所
東京慈恵会医科大学 槍ヶ岳山岳診療所。毎年7月の中旬から約1ヵ月間開設されるこの診療所は1950年、「遭難者や傷病者を助けたい」という同大山岳部部員の熱い思いを集めて設立された。 ひと夏に勤務する延べ90人ほどのスタッフは、医師、看護師、医学生/補助員すべて、無給のボランティア。3~5日ずつ交代で勤務する

本日は「山の日」。本格的な夏山シーズンを迎えた。近年、中高年の登山者は増えているが、それに伴い同世代の遭難も増えつつある。そこで、槍ヶ岳山頂直下、標高3060mにある東京慈恵会医科大学槍ヶ岳山岳診療所、通称“雲の上の診療所”の管理者・齋藤三郎医師に自らの体験を交えて、遭難対策などを聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

分別盛りの人が
意外と危ない

「40年近く、槍ヶ岳で登山者の健康を見守るボランティア活動をしてきましたが、あの事故は忘れられません」

 槍ヶ岳山頂直下、標高3060mにある東京慈恵会医科大学槍ヶ岳山岳診療所、通称“雲の上の診療所”の管理者・齋藤三郎医師は、辛そうに振り返る。

 それは2012年8月のこと。

 診療所周辺は午前11時から降り始めた激しい雷雨が小降りになり、遠く雷鳴が聞こえるのみとなっていた。ただし、雷は雷鳴の聞こえる場所ならどこでも落ちる可能性がある。

 まして槍ヶ岳の山頂は「槍の穂先」の形状をしており、北アルプスの避雷針とも呼ばれている。登頂は自殺行為に等しいため、隣接する山荘の従業員は、登らないよう懸命に登山者たちに呼びかけていた。

「ほとんどの登山者は山荘に避難しました。ところが、登り続ける6人のパーティがいたのです。

 山荘従業員が、危ないから引き返すよう拡声器で必死に制止したのですが止められませんでした」