今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。
56万人加入しても5000人しか残らない!
マーケティングコンサルタント、元株式会社WOWOWコミュニケーションズ取締役営業本部長
東京学芸大学卒業。日経ラジオ社に入社後、開局前年の東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYOMX)を経て、その後、有料放送であるWOWOWに転職。2006年、視聴契約の解約増加による4年連続加入者減少が続いたために新設された、「解約防止部」の初代部長に就任。顧客を引き留めるリテンションマーケティングを実施して加入者数減に歯止めをかけた。その後マーケティング局長に就任し、新規獲得からエンゲージメントの全体を担当。2014年WOWOWコミュニケーションズ取締役に就任。WOWOWグループ初の女性取締役、かつ男性中心の放送業界において希少な営業部門の女性取締役となった。2016年退社。現在、東証一部上場の学習塾最大手、明光ネットワークジャパンの執行役員を務めるほか、「優良顧客とともに歩むリテンションマーケティング」に関する講演、執筆に活躍している。
1年間の新規加入者数が56万人。しかし、解約する人が多いために年間ではたった5000人しか会員が残らない……。この数字を聞くと、ほとんどの人が驚きます。
これは、私がいたWOWOWが、会員の解約が多くて困っていたころのリアルな数字です。みなさんがご存じのとおり、WOWOWは有料放送で、加入者に毎月料金を支払って見ていただきます。料金は1契約で月額2300円(税抜き)。24時間放送の3つのチャンネルの番組をどれだけ見ても同じ金額です。
水道や電気といった生活に必ず必要なインフラでもなく、無料のテレビチャンネルが当たり前だった時代に、この「有料放送」を受け入れてもらうのは至難の業で、1991年に開局したWOWOWは広く会員を獲得しようと、テレビコマーシャルなどの宣伝はもちろん、「加入したら0ヵ月無料!」といった施策を中心に、会員を獲得していました。
そうした努力の甲斐もあって、WOWOWの認知度は上がり、開局から10年間ほどで250万件を超える総加入者数になりました。
しかし、その勢いをその後も続けるのは難しいことでした。デジタル放送のスタートによって、それまで主流だった代理店(家電メーカーの販売店など)経由での契約が減少し、顧客が直接にWOWOWに加入・解約を申し込むようになった頃から、解約が増加したのです。
WOWOWが放送するコンテンツは、地上波では放送されない海外サッカーやテニスなどのスポーツ中継や映画などが中心ですが、加入したばかりの人の中には、そのような「お目当てのプログラム」が終わってしまうと解約する傾向がありました。もしくはキャンペーンの無料期間が終了した段階で解約してしまう視聴者もたくさんいました。
そのため、どんなに大勢の会員を獲得しても、それに伴う流出も止められず、年々、新規の会員の獲得を伸ばしてもそれ以上の解約が発生する構造になってしまい、会員が減る……という悪循環に陥ってしまっていたのです。