有給の時季変更権って何?
どんな時に使えるのか?

 驚いたA社長は、Bが席を離れた後、すぐにD社労士に電話をかけた。そしてBの件に関する事情を説明し、こう尋ねた。

「旅行のキャンセル代を支払い、Bの妻に謝罪までしなくてはならないのか?」

 A社長の話を一通り聞き終えると、D社労士は口を開いた。

「今回の問題は、Bさんの有給に対して時季変更権ができるかどうかということだね?」
「じ、じきへんこうけん?それどういう権利?」
「有給休暇の取得を認めることにより事業の正常な運営を妨げることになる場合は、別の日に取得するように求めることができる権利だよ」
「じゃあ、今回の場合はそれに該当するんだな。わかった。B君にはそう説明するよ」

 慌てて電話を切ろうとするA社長に、D社労士は

「まあ、待て待て……」

 と言って詳細を説明する。

「この権利を使える条件は極めて限られている。例えば『単に忙しいから』とか『代わりの従業員がいないから』という理由では認められないんだ」
「今回の場合、時季変更権は使えるのか?」

 D社労士は即答した。

「できないね。だってBさんがいなくても大掃除はできるでしょ?」
「ああ、できるよ」

 A社長は納得できない様子で、さらに食い下がってきた。

「でも大掃除に参加しないのはB君だけだ。社内が一致団結する時に、これでは士気低下にならないか?」
「それは気持ちの問題であって、業務とは直接関係がないから行使理由にはならないよ」

労働基準法第39条5項(時季変更権)
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、 請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる(*)場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
*「正常な運営を妨げる」とは、事業所の規模、業務内容、当該労働者の担当する職務内容、性質、職務の繁閑、代替要員確保の配置の難易、同時季に有給休暇を指定した員数、これまでの労働慣行などが判断要素になる。