「あちらこちらから『スケルトン天井は要るの?』『グループアドレス制は不可能でしょ』『外出先を書き込むホワイトボードは残してね』といった意見が返ってきました。そのたび、移転のコンセプトやメリットを説明に行きましたね。例えば、グループアドレス制ではさまざまなメリットを書き出した上で、『その席にいなければならないという義務がなくなり、どこにでも行けるという権利が生まれるんですよ』と説得して回りました」(佐々木)

 須藤も佐々木の頑張りで「妥協のない仕事ができた」と感謝の念を抱く一人だ。

「オフィス移転はコアメンバーだけで進めれば失敗することが多い。コアメンバーの役割はいかに他の社員を前向きにできるか。実は、箱のデザインを決めるよりこちらの方が大事。社内の説得に失敗して『あの部署は固定電話が欲しいと言っています』などと折れる顧客は少なくない。その点、佐々木さんは決して負けなかった(笑)」

 三菱地所が社風にそぐわない本社オフィスづくりに乗り出した背景。それは働き方改革と、オフィスビル事業を取り巻く環境が激変していることへの危機感がある。

「サテライトオフィスやテレワークなど働く場所が多様化する中、オフィスの床だけを売っていればいいという時代は終わりました。10年後も選ばれるオフィスは何か? 自分たちが実験台になって新たな技術を取り入れ、良いものをつくりたいんです」(佐々木)

 三菱地所は目下、27年度の全体開業を目指し、高さ390メートルの超高層ビルに象徴される東京駅前常盤橋プロジェクトを進める。新本社の実験で得られる知見は、全てこの常盤橋につながるという。10年後のオフィス、働き方はどう変わっているのか、三菱地所の試行錯誤は始まったばかりだ。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

【開発メモ】三菱地所新本社
 大手町パークビルディングへの本社移転が発表されたのは2017年2月のこと。移転までに残された時間はわずか11カ月という異例の短さだった。通常、同規模のオフィス移転には1年半程度の時間を要するという。

写真提供:三菱地所