全国紙社会部デスクによると、樋田容疑者が逃走したのは、面会人とアクリル板で隔てられた接見室だった。ドラマや映画などでも容疑者との面会シーンでも登場するから、どんな構造かイメージしていただけるだろう。

 そう、あのアクリル板がきちんとはまっていなかったというのだ。しかも、通常は年1回行われるはずの点検項目に含まれてさえいなかったというから驚く。

 さらに、接見室のドアには開閉する際にブザーが鳴る装置があったが、富田林署は「弁護士が接見終了時に声掛けするから不要」と電池を抜いていたという。逃走事件を受けて大阪府警は全警察署に運用状況を確認したが、ほかの署はすべて電源・電池とも入っており、電池を抜いていたのは富田林署だけだった。

 さらなる失態が明るみに出る。

 樋田容疑者はサンダルから、動きやすい署員のスニーカーに履き替えて逃走した。筆者も現地で確認したが、署のコンクリート壁は高さ3メートル近く、有刺鉄線も張り巡らされており、樋田容疑者のように身長が163センチでは到底、乗り越えられない。

 しかし、付近にはなぜか洗車用の脚立が置き捨てられていたという。指紋は検出されていないが、逃走に利用したのは間違いない。スニーカーといい、脚立といい“用意周到”で、まるで「逃げてください」と言わんばかりのご丁寧さだった。

逃走時間を献上、緊急配備も限定的

 逃がした後もお粗末だった。

 樋田容疑者は“お膳立て”してもらったスニーカー、脚立でコンクリート塀をやすやすと乗り越え、さらに近くにあった赤い自転車を盗んでまんまと逃げおおせた。富田林署員が近くの防犯カメラに写る樋田容疑者の姿を確認したのは約1時間半後。

 逃走に十分な時間的猶予を与えてしまっていた。

 こうしたケースは初動がすべてで、住民へ警戒と情報提供を求めるため迅速に周知するのがセオリーだ。しかし、大阪府民に犯罪の発生や不審者情報を登録者のメールアドレスに配信するサービスで事件を通知するまで9時間、防災無線で住民に知らせるよう富田林市に要請するまで16時間も掛かっていた。