北海道札幌市に住む村井幸江さん(仮名・81歳)は最近、物置にある灯油タンクの残量を見るのが日課となっている。

 築40年以上、風呂なし、2間のうらぶれた市営住宅。12月末にして、周囲は早くも雪に覆われ、屋根からは数十センチの氷柱が垂れ下がっている。住人は高齢者ばかりで、棟の半数が死去または退去した。雪かきは1週間ごとに住人が持ちまわりで行なうが、順番が回ってくる頻度は、かつての倍に増えた。

 村井さんは昨春、約300リットルの灯油を買った。これまで細々と使ってきたが、いよいよ底を尽きかけている。

 北海道の多くの家庭では、ストーブと給湯に灯油を使っている。石油情報センターの統計によれば、北海道で1世帯が1年間で使う灯油量は平均で約2000リットル。その6割に当たる約1200リットルを冬期(12~3月)に消費する。村井さんが、手元の灯油だけで冬を越すのは不可能に近い。

 だが、後述するように灯油価格はわずか1ヵ月で3割も上昇した。村井さんの1ヵ月の年金収入は11万円。ただでさえ余裕のない生活ゆえ、高騰する灯油代を捻出するのは容易ではない。

 灯油節約のための苦肉の策が“早寝遅起き”だ。今冬来、朝8時まで布団に潜り、夕方5時には寝る生活を続けている。朝の室温は寒い日には氷点下3度前後にまで下がる。早朝に目が覚めることも多いが、日が昇るまでの間、布団の中でじっとうずくまっている。

 佐野伸子さん(仮名・84歳)の場合、平日は毎日、自宅から約2キロ離れた老人センターで過ごしている。家に居ないことでストーブを使わずにすむからだ。老人センターが休みの週末は、百貨店やスーパーに行き、なにを買うわけでもなく、時間をつぶす。