もちろん今も深センは世界の工場だ。今回の話はあくまで数千万人が働くこの地帯の、ごく最近でごく狭い場所をピックアップしたにすぎない。人手不足が騒がれる日本でも、リストラする会社も応募が殺到する会社もあるように、何事にも例外はあるし、この地域全体は今も製造業の街に変わりない。

 ファーウェイ(華為技術)やフォックスコン(鴻海精密工業)といった大企業の中核製造施設は、今も深セン周辺にある。地価と人件費の高騰に耐えかねた製造業の移転先も、まずは深センから車で2~3時間の佛山や恵州といった珠江デルタ周辺である。あと数年、少なくとも2~3年は珠江デルタは世界の工場であり続けるだろう。

 問題はその先だ。10年、20年先もここが世界の工場であり続けるという未来予測は難しい。

 では、製造業の中心地でなくなった深センに、どんな未来がありうるだろうか。

 香港もシンガポールも、数十年前はブリキのおもちゃやブラウン管テレビの組み立てをしていた、欧米先進国のための労働力供給地だった。今は違う産業で、引き続き成長を続けている。成長期の人間から乳歯が抜け、成長痛があるように、都市の成長にも段階がある。

 深センでは、これまでの産業集積を土台にして、新たなハードウエア産業が勃興しているし、高学歴者(特に米国などからの留学組)が企業のために集まる場所にもなりつつある。そうした別の形のイノベーションの担い手を中心に、新しいエコシステムが生み出されれば、今後もこの地は成長していくのだろう。