8月半ばには、銅が1トン当たり6000ドルを下回り、金が1トロイオンス当たり1200ドルを割り込んだ。共に節目となる価格を下回って大幅に下落した印象がある。しかし、原油は小幅な下落にとどまり、足元は高値をうかがっている。国際指標のブレント原油は9月中旬には5月下旬以来となる1バレル当たり80ドル台に乗せた。相対的に原油が高止まりしている背景には、供給が不安定なことがある。
米トランプ政権は5月8日にイラン核合意からの離脱を発表し、イラン産原油の禁輸措置を11月5日から再開する方針だ。2012年の制裁の際には、イラン産原油の輸出量が日量100万バレル程度減少した。今回も、同程度の影響が生じるとの見方が多く、すでにイラン産原油の取引を手控える動きが出ていると指摘される。
経済・社会の混乱が続くベネズエラでは、国営石油会社PDVSAの経営状況が悪化し、産油能力が低下した。8月時点の産油量は前年に比べて日量60万バレル程度減少しており、今後も減少傾向が続くとみられている。
内戦の影響などで減産を余儀なくされていたリビアやナイジェリアの産油量は回復傾向となっているものの、依然として不安定だ。
石油輸出国機構(OPEC)の原油生産余力は日量150万バレル前後とみられている。米国のシェールオイルが増産傾向を維持し、サウジアラビアやロシアが小幅増産の意向を示しているものの、世界的に需給が過度に引き締まるリスクがある。
原油相場も銅や金と同様に、8月半ばに、トルコの通貨急落に伴って新興国不安が強まった際に安値を付けた。その後、新興国不安が和らぐ中、イラン産原油の供給減少も意識され、相場は持ち直したものの、8月終盤からは、米中貿易摩擦の激化が需要の鈍化につながることが懸念されていた。
9月17日には、トランプ政権が、中国による知的財産権侵害に対する制裁措置の第3弾として2000億ドル相当の中国からの輸入品に対する追加関税を24日に発動すると発表した。
ただし、追加税率は、言及されていた25%ではなく、当面は10%とされたことから、世界経済への悪影響は小さいとの見方が優勢になった。投資家のリスク志向を強め、株式などとともに原油の相場も上昇した。
同日には、サウジが80ドル超といった現行の原油相場の水準を好意的に受け止めていると報道されたことも買い材料視された。
もっとも、米中貿易摩擦がさらにエスカレートする可能性が意識され、相対的に強い原油相場も上値は限定的だ。イラン産原油の供給減を他の産油国が補う動きを見せれば、それも弱材料となる。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)