2001年の9・11の同時多発テロ事件を受けてアフガン戦争からイラク戦争へと米国を導いたブッシュ時代は、近年になく大統領に権限が集まった時代だったかもしれない。

 大量の大統領行政命令発布や捕虜への拷問などに批判が集まるが、当時の司法省は「同時テロに関与した者と犯人をかくまった者に対する軍事攻撃を容認した連邦議会の決議(通称9・14決議)を採択した以上、米国大統領を妨げてはならない」とホワイトハウスへの一極集中を容認した。

三権分立の政治風土
憲法で相互牽制掲げる

 米国で「皇帝大統領制」という表現が使われる時はやや否定的なニュアンスを含んでいる。

 厳格な三権分立の適用を是とする米国の伝統的な政治風土になじまない考え方だからだ。

 米国の司法界に詳しく『憲法で読むアメリカ』などの著作がある阿川尚之・同志社大学特別客員教授からこんな話を聞いたことがある。

 阿川氏が米国の法律事務所で弁護士を務めていた1990年代前半、保守的な論陣を張ることで有名だったアントニン・スカリア最高裁判事にインタビューした時だという。

 何か制度的な質問をした時だったというが、「スカリア判事はニヤッと笑いながらこう言ったんだ。『君、米国憲法の制定者たちは、ガバメント(government)は動かない方がいいと思っていたのだよ』ってね」

 少し解説が必要かもしれない。日本で「政府」といえば「首相官邸プラス各省庁」という受け止め方が一般的だが、米国の場合は、“government”は、議会やホワイトハウスを含めた統治機構全体を指すことが多い。

 スカリア判事が言った「動かない政府」を、個人的にもワシントン特派員時代に取材をして実感したことがある。

 米国では大統領が進めている政策を、議会が法案として審議をしなかったり、遅らせたりしてストップをかけるケースが非常に多かった。

 大統領選挙の重要公約として掲げた政策を真正面から否定するのでは、その人物を選んだ国民の多数がいら立ちを感じるのではないか。

 米国の政治史に詳しいことで有名な上院職員のドナルド・リッチー氏を訪ねて「このような政治状況は国民に不満を生まないのか」と聞いてみたが、リッチー氏の答えは実にシンプルだった。

「だって憲法にはそう書いてあるじゃないか。何か問題なのか」