日本と新たな協議入りで合意するなど、世界を揺るがしてきたトランプ大統領の保護主義的な通商政策も、いまだ解決の糸口が見えない中国との関係を除けば、一旦は小康状態を迎えたように見える。しかし、中間選挙が終わった暁には、これまで以上に厳しい環境で再起動されるリスクがありそうだ。(みずほ総合研究所欧米調査部長 安井明彦)
中国を除き小康状態へ
背景に見えるトランプの思惑
全世界を相手とした米国主導の通商摩擦は、ここにきて米中摩擦に収斂してきたようにみえる。EU(欧州連合)、日本とのあいだでは、新たな通商協議の開始が合意され、交渉期間中は米国による自動車への高関税発動が見送られる見込みとなった。懸案だったNAFTA(北米自由貿易協定)の改定交渉も、9月30日には3ヵ国での合意が成立し、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)への衣替え作業が進められている。
米国が対中摩擦へと戦線を縮小してきた背景として、2つの理由が考えられる。
第一に、中間選挙に向けた成果の刈り取りである。トランプ大統領にとって、通商政策における強硬な姿勢は、選挙公約の実現にほかならない。しかし、同盟国までをも敵に回した通商摩擦には、実際に中間選挙を戦う身内の共和党議員から、居心地の悪さが伝えられていた。トランプ大統領としても、単に強硬な姿勢を示すだけでなく、選挙前に一定の成果を示す必要性があった。
第二に、対中戦線の再構築である。本丸である中国との交渉を進めていくにあたり、問題意識を同じくする同盟国と共闘する環境を整える狙いが感じられる。実際に、EUや日本との合意には、WTO改革や知的財産権問題への取り組みなど、中国を意識した協力が盛り込まれている。
対中共同戦線は、米国内の総意に近い。一口で通商摩擦と言っても、対中摩擦とそれ以外の国との摩擦では、米国内の受け止め方は全く異なる。中国に関しては、技術面での覇権争いや人権問題などを含め、トランプ政権に限らず厳しい見方が広がっている。
一方で、日本やEUなどの同盟国に対し、貿易不均衡を理由に戦いを挑んできた主たる原動力は、トランプ大統領の問題意識だった。日本の市場開放を求める畜産業界など、局地的な後押しがあるのは事実だが、中国に対する重層的な懸念とは格が違う。トランプ大統領の通商政策に対しても、「同盟国との無用な摩擦に体力を割いている」との批判があった。