郷原信郎著(講談社/2009年)
法令を遵守すること自体が目的化し、なぜそれを守らなければならないのか考えることをやめてしまう。著者はこれを「思考停止」と呼ぶ。社会が成熟したことや、個人の経験不足が原因かと思っていたが、そうではないらしい。
検察官でもあった著者は、社会と法令との関わりの変化から分析する。経済活動の自由化が大幅に進んだ一方で、法令の数は増え、強化された。長く神棚に上げられていた法令は、実際に「使われる存在」になった。
しかし、誰もが正しい使い方に慣れていない。問題を起こした企業へのバッシング、耐震偽装事件、年金記録の改ざんなどをめぐって数々の指摘がなされる。思考停止の原因は10年経っても解決していない。今も、法令遵守の掛け声だけが響く。
(元衆議院法制局参事 吉田利宏)