日本では中国企業が増えており、その中国企業で働く日本人も増えている。前回のコラム『「ウチの社長は中国人」日本人社員が語る働き心地』では、こうした日本人にフォーカスしたが、実は中国企業で働く日本人はもっと深い葛藤を抱えている。“中国流”に則れば、日本のルールに抵触しかねないという“危うさ”である。
日本にある中国企業の中には、目の前の商機に事業を急拡大させる会社もある。だが、この急拡大を可能にするのが、「不正行為」ということもままあるのだ。それを実際に体験したのが田中善朗さん(仮名、46歳)だ。田中さんは目の前で起こる不正行為に苦しみ、ある事件をきっかけに、自分を雇用した中国人社長と司法の場で闘うことになった。
白ナンバーで送迎してもらっていいですか?
田中さんもまた中国に人生の希望を託したひとりだ。学生時代の恩師から「中国語こそ次世代に生き残るための大事な言語だ」と言われたことが頭を離れず、社会人生活を経て、2009年に単身で中国に渡った。北京の大学で中国語を習得し、帰国した後は千葉県にあるインバウンド事業者のもとに籍を置いた。
その会社の本業は旅行業で、中国の旅行会社の発注を受けて、国内の旅程をアレンジする零細企業だった。タクシー乗務員として10年の実績がある田中さんを必要としたのは、ハイヤー事業を立ち上げ、ビジネスを一気に拡大しようとしていたためだ。2017年前半、中国人の訪日は個人客が増え、団体バスの需要が減る過渡期にあり、移動手段も小回りの利くワンボックスカーや乗用車にシフトしつつあった。
「研修を兼ねて、白ナンバーで送迎してもらっていいですか?」
それが田中さんにとっての初仕事だった。送迎する対象は中国からの観光客。それを営業行為には使ってはいけない「白ナンバー」の車でやれというのだ。