日本産科婦人科学会の調査によると、新型出生前診断によって胎児の病気が分かった夫婦の95%以上が人工妊娠中絶を選んだという。

 むろん、出生前診断を勧める側の意図は「生命の選別」ではない。前もって病気が分かっていれば、心の準備など、さまざまな準備をして、万全の体制で産むことができる。出生前診断は、誰よりも、生まれてくる赤ちゃんのためになされるべきだという。

 さらに言えば、どこの家庭にも経済状況などさまざまな個別で複雑な事情がある。病気の赤ちゃんが生まれてくる可能性を知り、どうするべきかの判断をするのは、親になる人にとって大切な権利でもある。

 出生前診断を受けて、赤ちゃんの病気が分かって、人工中絶した人たちを責める気持ちは千晶さんにはない。人を育てるのは簡単ではない。涙をのんで「おろす」のも責任ある行動なのだろうとは思う。

 ただ、周囲には次のような人もいた。取引先の社長は千晶さんの妊娠を知ると当然のように言い放った。

「出生前診断は受けたかい。ダウン症だったら、おろすよね?だって育てるの大変じゃん。俺は女房には絶対おろさせるよ。金も手間もかかるのに、将来面倒を見てもらうことだってできないんだぜ。そんな子どもを産むのは贅沢(ぜいたく)だよ。『生命の選別はいけない』なんてキレイごとは言わせないよ」

 笑顔ではあったが、目は笑っていなかった。

ダウン症ではなさそう
ホッとした自分にうろたえた

 結局、千晶さんは出生前診断を受けなかった。育夫さんは不安がったが、押し切った。