地域活性化、いわゆる「地方創生」の分野で「狂犬」と呼ばれる男がいる。木下斉、36歳。権力者に対する忖度や曖昧な意思決定がはびこる地方において、耳が痛くなるような正論を放ち続けることからついた異名だ。既得権益層には「狂犬」、若手にとっては「希望の星」。
そんな木下氏の新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』の発売を記念してインタビューを刊行した。地方におけるビジネスの要諦を全三回でお届けする。今回が最終回。前編中編はこちらから。(構成:井上慎平)

ストレスによる10円ハゲ、関係者の夜逃げ。すべて、必要な失敗だった

木下 斉
地域再生事業家
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、修士(経営学)。国内外の事業による地域活性化を目指す企業・団体を束ねた一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、一般社団法人公民連携事業機構理事を務めるほか、各地で自身も出資、共同経営する熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、サッポロ・ピン・ポイント株式会社代表取締役、勝川エリア・アセット・マネジメント取締役なども務める。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画したのを発端に全国商店街共同出資会社・商店街ネットワーク取締役社長に就任。その後現在に至るまで事業開発だけでなく地方政策に関する提言も活発に続けている。

――前回は、地方でビジネスを立ち上げるのに必要なのは「失敗を許容する姿勢」、逆に邪魔になるのは「失敗してはいけないという思い込み」だと伺いました。木下さん自身も、過去は失敗を積み重ねてきたのですか?――

それ、聞いちゃいますか(笑)。
当たり前じゃないですか。現在進行系で、失敗の連続ですよ。

私は高校生の頃に全国の商店街が出資してつくる「商店街ネットワーク」という会社の社長になったのですが、慣れない仕事にストレスで10円ハゲができたり、あまりに理不尽なことを言われ、株主総会で株主たちにブチ切れして社長を退任することになったり……その後も投資した事業で関係者が夜逃げをしたり、代金を踏み倒されたり、アイデアだけを取られてプロジェクトから外されたり、地元の経済団体から圧力を受けたりしました。

――す、凄まじい量ですね。――

でも、そういう中で本当に信頼できる仲間ができて、各地で一緒に会社を作って仕事をさせてもらえているのだから、必要な失敗だったと思うんですよね。
僕は別にどでかい成功をしたわけではないですが、今もおかげさまで好きなことはさせてもらえているわけです。

メディアは成功した後しか報じないから過去の「失敗」がイメージできない

ただ、メディアは成功してからしか地域のプロジェクトを取り上げないうえに、都合のよい美談ばかりを切り取ろうとします。だから、成功した後の姿だけを見ても、過去の失敗をイメージできないし、その段階に至るまでになくなっていった数多のプロジェクトなんて知られもしない。

でも、僕が知っている地域で成功している人は誰だって、たくさんの失敗を背負ってきていますよ。彼らだって、ときに心が折れかけ、事業なんて放り出して逃げ出したいと思うことさえある、ちっぽけな、生身の、弱い人間なわけです。それでも、取材されたときに「いやぁ、もうやめたいんですよ」なんて言えないですから。「地域のために頑張っています」とか当たり障りないコメントを言わざるをえない。

それなのに、多くの人は成果をあげた後の姿だけを見て「ああ、自分には無理だ。あの人とは器が違う」と諦めてしまう。けれど、実際に酒を飲んで話してみれば、同じ人間だとわかるはずです。

いろいろなことにビビって眠れない夜があったり、喧嘩したり、スタッフがついてこなかったり……日常茶飯事ですよ。そういうトラブルがあっても、成果をあげるまでやめなかっただけ。
最初から成功続きの天才だったわけではないんです。

明日のリーダーは、今日の凡人である

――『凡人のための地域再生入門』というタイトルにはそのような意図も込められているのでしょうか?――

まさに、そのとおりです。
衰退する地域に共通している問題は、「うちにもすごいリーダーがいればなあ」という「他力本願マインド」です。けれど、いつまでたってもそんなスーパーマンなんて来ないんですよ。どのまちにも、最初からスーパーマンだった人なんていないからです。

結局、うまくいっているまちと衰退するまちの差は、「ヒトなし・モノなし・カネなし」、という困難な状況でも、めげずに足を一歩前に出し進んできた「凡人」がいたかどうかだけです。
最初から評価されていたのではなく、成果をあげたから評価されるようになったわけですから。彼らだって、地元では「あいつにできるはずはない」と言われていた「凡人」たちばかりなんです。

だから凡庸であることを理由に自分ではないスーパーマンを待ち望んでいる限りは、いつまでもその地域は動き出さない。

それを伝えたくて、この主人公の物語も「都市部で会社に言われたことをやるだけの弱気なサラリーマン」という設定にしました。
実際、今地域で「ヒーロー」として注目される人の多くは、過去は東京などの大都市で普通に暮らしていた、専門家でもなんでもない目立たない存在でした。けれど、自分なりに少し勇気を出して挑戦したからこそ、そこから道が拓けていったわけです。地域活性化のため、なんて大げさなことは思わずとも、好奇心を突き詰めて成果をあげ、結果として地域のためになっているケースだってあります。

明日のヒーローは、今日の「凡人」なんですよ。

――立ち上がった「凡人」がいたかどうかが地方の明暗を分ける、と。――

そう思います。
地方を変えるには、不条理にも失敗にもめげず、泥臭く前に足を踏み出し続けるほかない。こうしたリアリティこそ、自分が伝えなければならないのではないかと思いました。だから、この本はストーリー形式でなければならなかったんです。

まだやっていない人にはそのリアルを疑似体験してもらい、もうやっている人には自分だけではないという連帯感や自信を共有したい。
そう思って書いたら、結果的に、私のまわりの知り合いからも「別に地域再生とか興味ないし、木下の今までの本は理屈っぽくてよくわからんかった。でも、この本はおもろい」と言ってもらえています(笑)。

自分の本をまず一冊読むなら、まずこれから読んでもらえると嬉しいです。

さびれていく地元に後ろめたさを抱えつつ、今日も都市部で働くサラリーマンへ

――最後に、この本は、誰に読んでほしいですか?――

ここまで、「闇」を語りすぎたので、地方で働くことがとんでもない苦行のように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
仲間には、「都市部で働いて、言われたことだけしていた時期のほうがよっぽど辛かった」とよく言われます。そういった意味で、この本は、都市部で働くサラリーマンも読者として想定しています。

「いつか地元の役に立てればいいな」とぼんやり思ったまま都市部に出て、帰るタイミングを失った人は結構多い。そういった人たちに、いつも問い合わせをいろいろともらいますから。

頭の片隅に、さびれていく地元に対する後ろめたさがある。もしくは、親の介護や事業を継ぐなどの理由で、いつかは帰る可能性がある。そんな人にこそ、読んでもらいたいですね。

別に将来地元に戻ることがなくても、戻って頑張る友人をサポートすることもできるでしょう。持ち家を貸し出すとか、できる範囲でいいんです。
それぞれができること、小さなこと、凡庸なこと、「どうせやってもしかたがない」と思うようなことを積み重ねれば、この物語の主人公のように思いもしない展開へと繋がることもあります。

それが、地域再生の醍醐味ですから。