瞬く間に世界を駆け巡った「ゴーン逮捕」の一報。記者会見で西川廣人社長はクーデターを否定したが、日産の過去の歴史をひもとけば、相次ぐクーデターはもちろん、会社から金をむしりとって豪遊し、世間を騒がせた労組会長など、ゴーン氏を彷彿とさせる人物も登場する。これが日産のカルチャーなのである。(ノンフィクションライター 窪田順生)

クーデター説から元妻刺客説まで
ゴーン逮捕で情報飛び交う

逮捕された日産のカルロス・ゴーン会長過去数十年の日産の歴史を振り返ると、クーデター(未遂も含む)が何度も起きたほか、強権を握った上に会社のカネで豪遊しまくった労組会長がいたなど、今回のゴーン氏追放劇が決して珍しい出来事ではないことが分かる Photo:Reuters/AFLO

 こりゃどう見てもクーデターだろ、と感じている方も多いのではないか。

 日本のみならず、世界的にも大きな注目を集める「ゴーン逮捕」。連日のように、逮捕前にゴーン氏がルノーとの経営統合を検討していたとか、日産幹部が捜査当局と司法取引をしていたとか報じられるなど、組織ぐるみの「ゴーン追放」を補強する材料が続々と飛び出している。

 自動車業界で綿密な取材をすることで知られるジャーナリストの井上久男氏をはじめ、日産社内に多くの情報ソースを有する人々からも同様の見立てが相次いでいる。そこに加えて、ここにきて元検事の方などからは、「別れた元妻」が刺したのではという憶測も出てきている。

 権力者のスキャンダルや不正行為の多くは、敵対する勢力より、「身内」からリークされる。離婚の訴訟費用が日産から出ていたという話もあるので、「ゴーン憎し」の元妻と、「ゴーン追放」を目論む幹部の利害が一致して「共闘」をしたのでは、というわけだ。

 一方で、これらのストーリー自体が、ゴーンやルノー側の「スピンコントロール」(情報操作)である可能性も全くのゼロではない。

 ご存じのように、不正やインチキが発覚した経営者が潔白を訴える場合、「私を貶めるためのデマだ」などと主張するのがお約束である。

 筆者も記者時代、そのように解任された元・経営者の方たちから、「ハメられた」「裏切られた」というような訴えをよく聞かされて辟易した思い出がある。いつの時代も「クーデター説」は権力闘争時に飛び交う定番コンテンツなのだ。

 今後、もしゴーン氏が潔白を主張する場合も、日産をルノーから守るための「国策捜査」だとか、日本人経営陣らにハメられたというストーリーがもっとも適しているのは言うまでもない。つまり、「クーデター」の既成事実化は、図らずもゴーン氏へのナイスアシストとなってしまうのだ。