瞬く間に世界を駆け巡った「ゴーン逮捕」の一報。記者会見で西川廣人社長はクーデターを否定したが、日産の過去の歴史をひもとけば、相次ぐクーデターはもちろん、会社から金をむしりとって豪遊し、世間を騒がせた労組会長など、ゴーン氏を彷彿とさせる人物も登場する。これが日産のカルチャーなのである。(ノンフィクションライター 窪田順生)
クーデター説から元妻刺客説まで
ゴーン逮捕で情報飛び交う
こりゃどう見てもクーデターだろ、と感じている方も多いのではないか。
日本のみならず、世界的にも大きな注目を集める「ゴーン逮捕」。連日のように、逮捕前にゴーン氏がルノーとの経営統合を検討していたとか、日産幹部が捜査当局と司法取引をしていたとか報じられるなど、組織ぐるみの「ゴーン追放」を補強する材料が続々と飛び出している。
自動車業界で綿密な取材をすることで知られるジャーナリストの井上久男氏をはじめ、日産社内に多くの情報ソースを有する人々からも同様の見立てが相次いでいる。そこに加えて、ここにきて元検事の方などからは、「別れた元妻」が刺したのではという憶測も出てきている。
権力者のスキャンダルや不正行為の多くは、敵対する勢力より、「身内」からリークされる。離婚の訴訟費用が日産から出ていたという話もあるので、「ゴーン憎し」の元妻と、「ゴーン追放」を目論む幹部の利害が一致して「共闘」をしたのでは、というわけだ。
一方で、これらのストーリー自体が、ゴーンやルノー側の「スピンコントロール」(情報操作)である可能性も全くのゼロではない。
ご存じのように、不正やインチキが発覚した経営者が潔白を訴える場合、「私を貶めるためのデマだ」などと主張するのがお約束である。
筆者も記者時代、そのように解任された元・経営者の方たちから、「ハメられた」「裏切られた」というような訴えをよく聞かされて辟易した思い出がある。いつの時代も「クーデター説」は権力闘争時に飛び交う定番コンテンツなのだ。
今後、もしゴーン氏が潔白を主張する場合も、日産をルノーから守るための「国策捜査」だとか、日本人経営陣らにハメられたというストーリーがもっとも適しているのは言うまでもない。つまり、「クーデター」の既成事実化は、図らずもゴーン氏へのナイスアシストとなってしまうのだ。