アップルは何から何までオールドパワー

 キャッスルの特徴がやや目立ちにくいのが、世界でもっとも企業価値の高い企業のひとつ、アップルだ。アップルが卓越したテクノロジー企業であることは疑いないが、だからといってニューパワーの企業であるとは限らない。それどころか、アップルはオールドパワー・モデルを採用し、典型的なオールドパワーの価値観を持っている。

 同社は熱狂的なファンである顧客たちにすばらしい製品を提供しているが、「我々がいちばんよく知っている」という態度を貫いている。クパチーノの本社では、伝説的なジョナサン・アイブの率いるデザインチームが、消費者が欲しいと思うより先に、消費者が欲しがるものを突き止め、見事に商品化して提供する。我々の役目は、ただ消費するだけだ(イヤフォンジャックはもう要らないと勝手に決めつけられても、文句すら言えない)。

 アップルのビジネスモデルにも、アップストアなどオープンな側面はあるが、それさえもアップルによる面倒な制限や一元管理をまぬがれない。

 アップルは社内文化も秘密主義で、他社からは一緒に働くのが難しい相手としても知られる。同社の持続的な成長は、いまだにオールドパワー・モデルに成功の余地があることを如実に物語っている。しかし、アップルの魔法を真似しようとしても、ほとんどの組織には難しいだろう。

懐柔者:モデルだけがニューパワー

 最後に紹介するのは、左上の「懐柔者」だ。ここに該当する組織はニューパワー・モデルを持ちながらも、オールドパワーの価値観に基づいている。ウィキペディアがニューパワー・モデルとして開放性と民主主義の希望の光であるのに対し、ウーバーやフェイックは、ともに仲間(ピア)主導型のネットワークのおかげで巨大な規模に成長したが、ユーザーとの接し方や価値観や情報共有の方法はオールドパワー的だ。

 懐柔者が発信するユートピア的なメッセージと権力の行使のしかたとの乖離が、ユーザーの集合知や競合他社によって浮き彫りにされるにつれ、世間からの風当たりは強くなっている。

 しかし、多くの意味で繁栄しているのも事実だ。ISISや白人至上主義者など、デジタル戦略に長けたヘイトグループは、分権的なソーシャルメディアを駆使する軍隊ときわめて独裁主義的な価値観を、巧みに組み合わせている。

マトリックスの「どこ」に位置しているかを確認する

 これらの組織の多くは、マトリックスの上を移動しているか、移動しようとしている。

 たとえば、『ガーディアン』紙は読者の参加をうながすことで「クラウド」のカテゴリに近づこうとしている。ブラック・ライブズ・マターは、当初は誰にでも開かれた組織として始まったが、拡大するにつれ、活動を取りまとめ、「社会的に無視された人たちの声を運動の中心に据える」という設立時の目的を再確認するために全国に支部を立ち上げるなど、フォーマルな組織体制を整備するようになった。

 GEやユニリーバなどオールドパワーの多くの企業は、ビジネスの手法や社内文化にニューパワーの考え方を取り入れるため、大きな変革を行ってきた。

 だが、根本的にビジネスモデルを変えるのは、はるかに困難だ。組織外から知識や技術を積極的に取り込むための「オープン・イノベーション」が、ごく部分的な企業変革に終わってしまうこともよくある。しかし本書では、それを見事に成し遂げたオールドパワーの組織の実例や取り組みの数々を紹介する。

 ニューパワーで成功し、群衆の支持を獲得したムーブメントやモデルも、やはり困難な選択を迫られている――設立当初のニューパワーの価値観にこだわり続けるべきか、あるいはニューパワーのビジネスモデルから転換を図るべきか。

 新旧のパワーが衝突し、拮抗し、歩み寄る世界では、誰もが移動している。すべての組織は、自分たちはマトリックスのどこにいるのか、数年後にはどこを目指し、どうやって移動すべきかを、しっかりと考える必要がある。

 右上の「クラウド」を目指して突っ走るにせよ、じっくりと戦略的に「キャッスル」脱出を目指すにせよ、我々はみなニューパワーのスキルを理解し、習得する必要がある。

 本書では、ニューパワーによって新たにどんなことができるようになるのか、さらに、それによって日常生活や、仕事や、社会にどのような影響が表れるのか、そのすべてを明らかにする。

(本原稿は『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』からの抜粋です)