本連載第一回でも紹介したシリコンバレーのベンチャー・キャピタル(VC)であるブルペン・キャピタルは、野球のブルペンから中継ぎ投手を出すように、48社の米国スーパーエンジェルと付き合い、そこから紹介されたスタートアップに、シード段階後に投資するユニークな存在だ。ブルペンは創業二年足らずで、すでに約15社に投資し、AssistlyがSalesforceに、FlashsoftがSandiskに買収されるなど、実績を積み上げている(2012年3月末現在)。そのブルペンを率いるリチャード・メルモン氏に最新のスタートアップ/VC事情を聞いた。同氏は、シリコンバレーで四十数年に渡り活躍してきた起業家でありメンターとして知られている。

新たな視点で突然変異をつくりだすのは
カネでなくヒト=起業家

リチャード・メルモン/カリフォルニア大学バークレー校 物理学科卒業、 スタンフォード大学 経営学修士(MBA)。Intelでマイクロプロセッサー、VisiCorpで世界初の表計算ソフト“VisiCalc”の立ち上げを手掛ける。そ の後、McKenna GroupにてIntel, Apple, Genentech, 3Com等のマーケティング戦略を立案。Electronic Artsを共同創業の後、Sun Microsystems, Adobe等のマーケティング・コンサルタントを経て、NetService Ventures Groupを設立。2010年にBullpen Capitalを設立。
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 もともとは妥協を知らない喧嘩っぱやい起業家、いまは若手起業家がよく訪ねてくる頼りになる“オヤジ”であるメルモン氏は、筆者がシスコ・システムズの事例を分析した書籍「成長を創造する経営」(ダイヤモンド社)の制作で、セコイア・キャピタルのパートナーで当時シスコ副会長のドン・バレンタイン氏を紹介してもらって以来のつきあいである。

 まず、「スタートアップとは何か」について理解する必要がある。

 人類は何千年も前から社会を形成し、人工的な生活環境をつくってきた。ヒトは生物の中で特別な存在だ。アントレプレナーシップはヒトと類人猿を隔てる大きな違いの一つだ。

 ヒトの中でも起業家は、新たな視点で突然変異(mutation)を創りだす。小さな変化ではなく革新的なものだ。これはランダムな出来事であり、計画的にできることではない。

 例えばモバイルが面白いとなると、そこに様々なアイデアが生まれる。もちろん、ファイナンスやマーケティング、テクノロジーは必要となるが、大きなビジョンやアイデアが大切だ。これはヒトにだけできることであり、突然変異を創り出す存在が起業家だ。カネよりもまず起業家が先で、その存在が重要だということだ。

 メルモン氏は、アントレプレナーシップは人類だけができる創造的作業であることを忘れてはいけないと説いている。そして、スタートアップは「人=起業家次第」であり、カネがつくるものではない、と言う。氏の指摘する通り、この傾向は近年ますます強まっており、投資家も起業家もそれを認識し始めている。シリコンバレーでは起業家は「突然変異の創造主」として尊重されているのだ。

 一方で、日本はどうか。残念ながらミュータント扱いだ。日本でスタートアップが活き活きとするにははまず、起業家をとりまく人々の啓蒙も必要なのだ。