社会や会社の在り様について、延々と持論を展開し始めた。だが孝枝さんが本当に聞きたかったのは、彼女の心身をいたわる言葉。テレビのコメンテーターみたいな話はまったく欲していなかったのだが、恵一さんは気がつかない。

 さらに孝枝さんには、誰にも話していない「症状」があった。幻覚と幻聴だ。

 ある時は、部屋の壁から馬に乗った武者があらわれ、踏みつぶされそうになる。またある時は、マンションのベランダにカラスがやってきて、一晩中鳴きつづけて眠れない。家族ぐるみの付き合いがある保育園の同級生ファミリーと旅行に行った際には、客室のベッドに見知らぬおじいさんが寝ていて驚いた。いずれも、孝枝さん以外には見えてもいなければ聴こえてもいない。

(私って霊感があるのよね。でも、こんな話、誰も信じるはずがない。へたしたら、統合失調症とかにされてしまうから、誰にも言えない)

 もちろん、メンタルクリニックでも、この話は一切しない。処方された薬は、当初は飲んでみたが、ひどい眠気と食欲不振になったのでやめた。

 今困っているのは、時々すごく「死にたくなる」ことだ。

 なぜ、自分がそう思うのかは分からないが、とにかく死にたい。一方で、そんなふうに思う自分が恐ろしくて、時折独りで号泣してしまう。

「誰か助けて」

 心の叫びは、一番近くにいるはずの、恵一さんにさえ届かない。