ただ、異常がない以上、会社に病気とは認めてもらえない。翌日から孝子さんは、前よりも1時間早起きし、発作が起きそうな予感がしたらすぐに電車を降り、行きも帰りも休み休み通勤するようにした。手のひらにびっしょりと汗をかきながらひたすら耐える。おかげでストレスがたまる。いつ起こるか分からない発作が怖くて、電車に乗るのが憂鬱(ゆううつ)になり、乗ることを考えただけでも心臓がどきどきするようになった。

 しかも、それだけではない。電車の中だけでなく、高層ビルのエレベーターや映画館など、一度入ったら、なかなか自由に外へ出にくい空間でも発作が起きるようになった。

 そしてこの頃になるともう、不整脈などの心臓病を疑う気持ちは消えた。

「私、電車とかエレベーターとか映画館とか、逃げ場がないような場所に行くと、心臓がどきどきして、息が吸いづらくなって、死にそうになるの。本当に、死にそうなの。ものすごく怖いのよ。でも、病院に行っても、なんでもないって言われるの。なんでもあるのに。もう、つらくてたまらないの」

 泣きながら夫の拓海さん(仮名・30歳)に訴えると、彼は大学病院の「精神科」を受診するよう勧めてくれた。

「それって、パニック障害なんじゃないの。結構、なっている人多いらしいよ」

パニック障害の原因は
脳の機能不全

 孝子さんは、大学病院の精神科を受診した。長い長い問診の後、医師は優しく言った。

「パニック障害と広場恐怖ですね。パニック障害の特徴的な症状は『パニック発作』です。これは動悸・呼吸困難感・発汗・めまい・震え・手足が冷たく感じるなどの症状が突然あらわれて、『このまま死んでしまうのではないか』という強い不安感に襲われる状態です」