この事件は、あの歴史と伝統のある三越百貨店が、社長である岡田茂氏とその愛人竹久みち氏によって蹂躙(じゅうりん)されていたのを、社外取締役のサポートを受けた社内取締役のクーデターによって、取締役会において社長を解任し、その後刑事告発したというものである。

 事情は当時の顧問弁護士・河村貢氏の著書『解任』に詳しい。

 まず、どれだけ社長が会社を私物化していたかというと、以下の通りだ。

・愛人の会社を無理やり取引に介在させる
 商品を海外から輸入する際、業務上の必要はまったくないにもかかわらず、愛人の会社(オリエント交易)を帳簿上介在させて口銭やコンサル料を支払う。輸入が増えると愛人の会社がもうかる仕組みなので、輸入商品がどんどん増加し、売れ残りが激増した。このほかにも愛人の設立した宝飾品ブランド「アクセサリーたけひさ」の商品を強引に三越に納入させ、利益供与を行う。自社の婦人服ブランド「カトリーヌ」の生地を輸入する際に、オリエント交易に口銭を払い、さらには服のデザイン料として製品価格の7%を愛人のペーパーカンパニーに支払う……など。

・取引業者に複数の家の費用を持たせる
 三越がある業者に発注した建物や設備の増築工事などについて、その業者が請求した額が水増しされ、その水増し分が岡田氏の私邸の改築費に使われた。それとは別のマンション(愛人と使う目的)についても、癒着業者からクラブハウスを造るという名目で頭金を出させて購入し、さらには室内整備については出入り業者に突貫工事を強い、自分では工事費をほとんど払わなかった。結局、この業者は、三越からの注文の代金を水増ししてまかなったという。

・派手好きで、豪勢な社長室を造る
 社長室といっても、本社のワンフロアを大きく占領し、ベッドルーム、シャワー、バス、トイレ、食堂、応接間、日本間、書斎などのある巨大なスペースである。さらに、岡田氏は自己顕示欲が強く、とにかく派手好きであった。これ自体は問題行為ではないが、招待客を1000人以上呼んでベルサイユ宮殿にて、パリ三越7周年記念パーティなども実施している。

・反社会的勢力からのたかりに遭う
 ブラックジャーナリズムへのもみ消し依頼から、さらにもみ消し依頼した相手からもたかられることになり、金を吸い取られるようになる。また犯罪行為に加担した企業から、原野の土地(価値はほぼゼロ)を高額(4億8000万円)で購入することもあった。問題のある相手に何かを頼むと、弱みを握られ、後々もたかられ続ける。

 これだけの問題がありながらも、反対派はどんどん左遷され、退社していくので自浄作用が働かない。経営幹部もすべて子飼いばかりになる。親衛隊が諜報活動を行い、反社長的な言動をしていないか目を光らせる。みじんでも反対派の兆候が見受けられればパージの対象となり、左遷される。悲しいことに、こういうトップになってから、一般の従業員の中にも、業者へのたかり行為を行う者があったようである。こんな状況下では、ばからしくてまじめに仕事をする気持ちがなくなってくるのだ。組織内部の倫理意識が崩壊しかけていた。