何でもできるスーパーマン社長を
補佐した“番頭”専務の隠れた腕前

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 ある中小企業で実際に起こった例だ。いま評判の「下町ロケット」ではないが、ある分野の研究開発を中心としたイノベーションを売りにした会社だった。ドラマ同様、社長も元研究者で、相当なアイデアマンだった。基本的には、社員は社長の手足となって、サポートし、研究アイデアを製品に結び付け、学会発表や営業活動を行っていた。

カリスマ社長と、有能なナンバー2のおかげで急成長していたはずなのに…。崩壊のきっかけは、なんと社長と女性役員の不倫だった!

 社長が就任してから、業績は常に前年度比で2倍になった。社長はアイデアマンであるだけではなく、カリスマ性もあって、なんでもできた。

 部下のできない仕事をカバーし、営業をやらせても、どの営業部社員よりも仕事を取ってきた。会社は元々、研究者時代の部下だったものも含めた5人で始めたが、業績が好調なのに伴い、6年後には40人近くを抱えるようになっていた。

 社員は全員、社長の実力とカリスマ性を評価していたが、時に情熱的すぎる社長に辟易したり、距離を置きたがる社員もでてきた。あるいは、社長があまりにも凄いため、「恐れ多くて何も言えない」といった社員もおり、だんだんと創業当時の「全社一丸」のような状態を作ることが難しくなった。

 創業時代から社員が20人未満のときは、何をするにも皆が一緒にやり、社長の目も行き届いていた。社員のモチベーション向上から人間関係の面倒まで、社長の采配でうまくいっていたのだ。

 だが、大所帯になってくるにつれ、社長の目も行き届かなくなった。創業時代からの5人組の1人である専務は、そのことにいち早く気づき、すぐに自ら総務部長を兼任。社員一人ひとりから定期的に聞き取りを行って、社長に伝えることにした。聞き取りといっても、フォーマルなものではない。日常の会話や飲み会での、ちょっとした不満や愚痴など、組織に関係のあることならば、すべて書き留めておいて、必要なものを役員会の議題に挙げたのだ。

 重要なのは、それらの愚痴や不満が自分や社長に向けられたものであっても、しっかりと聞き取りを行ったことだった。面と向かって言えない社員については、その社員と仲のいい他の社員を介して聞き取りを行い、他の役員たちにも、積極的に社員から情報を吸い上げるように指示した。