キューバでは、民芸品を買うときなどでも、事前に値段を交渉しなければいけないことが多いため、あらかじめ相場を確認していったほうがいい。ホテルの人に聞くと教えてくれる。普段の買い物で、値段を交渉することがない日本人にとっては、ハードルが高い文化だ。

「ショウヘイ オオタニはサムライだ」

 ただし、「騙されるのではないか」と警戒し過ぎて現地の人と触れ合わないのはもったいない。これも、滝口さんが書いていることだが、キューバではやたらめったらと道端で声をかけられる。はじめはビックリしたが、ほとんどの場合が「ただ単に気になったから声をかけた」という程度の意識のようだ。

 ハバナに滞在中、筆者は髪が緑色だった。脱色して、上から紺色をのせたのだが、色落ちしてなぜか緑色になってしまったのだ。それが、よほど気になったのだろう。すれ違いざまに「すごい髪の色だな!」と声をかけられたり、「その髪、どうなってるの? ちょっと触らせてくれない?」と言われたりすることもあった。

 キューバの人がフレンドリーで、日本人がシャイと言ってしまえばそれまでだが、そもそも人に対する距離感が、日本とは違うのだろうと思う。滝口さんはこのことを「『他人』という感覚があまりない」とし、キューバから日本に帰国後、「(他人と)目が合っても無視すること」に慣れるのが大変だったと記している。

 あと、「中国人?」「日本人?」「韓国人?」と現地語で聞かれることも多かった。「日本人」と答えると、「ありがとう!」と日本語で語りかけられ、握手をして去っていく、みたいなことが何度もあった。「ショウヘイ オオタニはサムライだ」としみじみ語るおじさんもいた。また、日本人だとわかるやいなや、「オチン」と声をかけてくる人もいるが、これは「おしん」のことらしい。現地で、テレビドラマが放映されたのだろうか。

 社会主義の国なので、あまり海外の情報は入ってきていないのではないか、と勝手に予想していたものの、現地の様子を見る限り、それほどでもないようだ。複雑な歴史背景があるため、西洋のブランドだと露骨にわかる洋服は着ていかないほうがいいのかな、と忖度して無地で臨んだのだが、ロサンゼルス・レイカーズ(NBAのチーム)のユニフォームを着た現地の人もいて、他文化に対しての殺伐とした空気は一般住民の間には感じられない。

 当たり前のことだが、現地に足を運んでみなければわからない肌感覚はたくさんあるな、と改めて気づいた。

徹底した「レディーファースト」

 ハバナに滞在して、日本と明確に違うなと思ったのは、レディーファーストが徹底しているということだ。レストランなどで男性のほうが先に座ると、店員が露骨にけげんな顔をするし、女性の同行者と一緒に買い物をしているとき、少し離れたところで別の商品を眺めていた筆者に、レジを終えた商品が入った彼女の紙袋を、店員がわざわざ手渡しに来たこともあった。

 レディーファーストについては、その起源やマナーの是非などについて否定的な意見もある。しかし、少なくともキューバでの常識は、そうなっているようだ。日本にいる感覚で行動していると、現地の人に不審な目を向けられることになる。