子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を集めた新刊『子どもが幸せになることば』が、発売前から注目を集めています。
著者は、共働きで4人の子を育てる医師・臨床心理士で、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けてきた田中茂樹氏。親が「つい、言ってしまいがちな小言」を「子どもを信じることば」に変換すると、親も子もラクになれるという、心理学に基づいた「言葉がけ」の育児書です。
この記事では、「ほめて育てる」ことの問題点を紹介します。(構成:編集部/今野良介)
「ほめる」とは「評価する」こと
ほめる、ということに、問題がある場合があります。
それは、「ほめる」と「アドバイスする」のは似ているからだと思います。
ほめるとは「評価する」ことです。「それはいいね」というふうに。「それはいいね」は「それじゃないのはよくないよ」と言うのと、ある意味で同じです。
そのままを受け入れるのではなく、「こういうものなら受け入れるよ」という基準を示している感じです。「この字はきれいだね! いいね!」っていうのは、「こういうのではない字はよくない」と言っているようです。
繊細だったり、大人の顔色を伺う傾向のある子ほど、褒められることばかりをやろうとしてしまう傾向があります。
そのような場合の問題点は、本当に自分がしたいことと、親にほめられるからすることの境目が曖昧になることです。
「お約束」も同じ問題があります。
「じゃ、これはお約束だからね!」
「お片づけちゃんとするって、お約束したでしょ!」
これ、決めているのは親なのです。
「お約束」は、命令なんです。
ほめられなくても、子どもは、自らの行為の中に報酬を受け取っています。わざわざ褒められなくても、自分が達成したことに満足かどうかは、自分で味わっているのです。
親だって、昔は子どもだったのですから、そう言われればそうだったなぁと、思い出すのではないでしょうか。もし、子どもにとって褒められることが必要だったら、子どものほうから、親の注目を要求すると思います。
「ママ、見て、見て!」って、うるさく言う時期がありますよね。その時には「うん、見たよ」とか、そういうふうに言ってあげたらいいと思います。もう「見て!」と言わなくなったのに、いつまでも導こうとする必要はありません。
うちの三男が3歳のころの話です。
家族で夕食のカレーを食べていました。周りでは兄二人が先に食べ終わっていました。
三男はスプーンで食べていたのですが、最後に皿の隅っこに、小さくごはんが残っていたのです。それをそのままスプーンですくえば、確実に皿からこぼれるだろうという状況でした。
「まあ、こぼれるだろうなぁ」と思いながら私は見ていたのですが、子どもはなんと、犬みたいにがぶりと口を近づけて食べて、こぼさなかったのです。
それを見て、上の兄が思わず「えらいな。こぼさないで食べたね!」と言ったのです。
そしたら三男は「ほめなくていいの!」と、怒って言い返しました。
彼は、不本意だったのでしょう。「こんな食べ方、お父さんや兄ちゃんたちはしていないじゃないか! 自分は仕方なくやったのだ! いいと思っていないのだ!」と、言わんばかりでした。
こういう状況で、親はどう言葉をかけたらいいのか、本当に難しいです。
ただ、「上から目線の言葉になっていないか」を意識しておくことは大切です。「親なのだから上からでいいではないか」と思うかもしれませんが、上から目線の話し方にしないことで、より対等に話すことができます。
いつもこぼしている子どもがこぼさずに食べられたら、親はつい「えらいね!」とほめてあげたくなるかもしれません。でも、それよりも「おいしかった?」などの、思いや考えを伝え合うような言葉がよいと思います。
そのほうが、子どもも思ったことを言いやすいはずです。子どもの「発言したい」という気持ちを起こす方向で関わってあげてほしいのです。
親に対して、いい意味で対等に話せれば、仲間や先生にも話しやすい子になるでしょう。このような姿勢は、子どもが「自分の言いたいことを言えるようになる力」を育てるための関わり方だと、私は考えています。