2018年は、メルカリやMTGといった大きいサイズのIPO(株式公開)が話題になりました。一方で、小さいサイズのIPOも増加しており、二極化の傾向が見られます。未上場スタートアップ、新興上場企業に対する経営支援事業、並びに産業金融事業を行うシニフィアン株式会社の共同代表3人(朝倉祐介さん、小林賢治さん、村上誠典さん)が、今後の新興株式市場について発行体の経営者の視点から考えます。

朝倉祐介(以下、朝倉):2018年は63社がマザーズに上場しましたね。

小林賢治(以下、小林):この中でもラクスルのIPOは、マザーズの変化を如実に表していたように感じます。それまでのIPOとは一線を画した、機関投資家を中心とするオファリングサイズ(上場時の公募と売り出しを合わせた総額)の大きなIPOという意味で、今後に与える影響は非常に大きいと思います。

村上誠典(以下、村上):そうですね。全体的に見て、公開価格の平均値は上がっているので大きなIPOが増えたと言えます。しかし、中央値でみると、公開価格ベースの時価総額は50億円を下回っており、上場後の初値ベースでも100億円といったところです。

小林:2018年は50億円を下回っていたんですか!?

大型IPOが増えている一方で…

村上:実はそうなんですよ。2017年は60億円を超えていたので、大型IPOが増える一方で、小型のIPOも増えているということです。二極化が進んでいるともいえますね。

小林:マザーズ市場におけるIPOサイズの二極化は、2018年の大きなテーマかもしれませんね。2018年はメルカリとMTGが大きく平均値を引き上げているはずです。メルカリにしても、オファリングサイズの大きかったラクスルにしても、国内外の機関投資家が入ったことが大きなポイントになっています。

村上:まずもって両社のケースは、CFOがIPOの設計をしっかりやった成果だと言えるでしょうね。売り出しの量や投資家に対するエクイティストーリーを、緻密に準備し、証券会社とも上手く付き合ってきたということです。

 両社のIPOについてもうひとつ注目すべき点は、流動性を作ることができたということ。大きなIPOを成功させるうえでは非常に重要です。

朝倉:ラクスルの上場に向けた戦略については以前、永見CFOからこのシニフィアンスタイルに寄稿してもらったことがありますが、事前に相当な準備をしていたということです。大きなサイズで上場している会社や、あるいは、上場後も株価が堅調に成長している会社を見てみると、多くの場合、外資系投資銀行の出身者など、ファイナンスの知見のある人材がコアメンバーとして在籍しているケースを見受けます。

小林:メルカリの場合、上場時のオファリングサイズが1,000億円を超えており、文字通り桁違いの規模でした。一方、マザーズの数値を見ると、2015年から2017年ではIPO時のオファリングサイズの中央値はわずか11億円なんですよ。

朝倉:そうですね。11億円であれば、わざわざIPOをしなくても、調達できる規模感の資金ですね。

村上:11億には売り出し分も含んでいるので、実際はその半分以下の調達額と見るべきでしょう。

小林:2016年のデータで売出しと公募の比率を見ると、3分の2が売り出しになっています。

朝倉:ということは、調達額は3~4億ということになりますね。今ならシリーズBか、場合によってはシリーズAの規模感です。

小林:実際にそのオファリングサイズだと、証券会社に入る手数料は1億円にも満たないわけです。だとすると、「オーダーメイドで海外ロードショーを支援してください」とか、「プレディールリサーチレポート(上場前段階におけるアナリストによるレポート)を書いてください」という要求をしたところで、証券会社からするとかけた工数に見合うだけのフィーを得られる見込みがなく、実現は難しいということになるでしょう。

村上:だいたい上場前の準備期間を含めて3年間かかっているとすると、1億円にも満たないフィーでは、月額200万ちょっとです。IPOコンサルティングとしても安すぎます。

小林:そうでしょうね。ラスクルの場合は売り出しで180億円くらいのサイズがありました。メルカリとなると1,000億円以上。そのくらいの大きさになると、証券会社に支払うフィーの水準も相当大きくなりますし、発行体側の交渉力も増します。

村上証券会社に頑張ってもらうという意味では、時価総額ではなくオファリングサイズが大きいことが大切です。加えて、ラクスルのように海外を含めた投資家基盤を構築したいということであれば、手数料総額を大きくするだけでは足りません。時価総額も大事ですが、流動性をしっかりと作れるIPOなのかという観点も重要です。海外の機関投資家は流動性がない株式は保有リスクが高いとみなすので、その点もしっかり設計していくことが大事になりますね。

小林:ラクスルの場合、2018年11月末時点で4社の海外機関投資家が大量保有を出しています。この4社で全株式の25%程度を保有しています。これも、IPO時に大きな流動性を創出したことで可能になった数値でしょう。

朝倉:どうすればラクスルのような上場を実現できるのかについては、いろんなスタートアップ関係者が気にしている点ではありますが、そもそも、それだけオファリングサイズが大きくないと、話にならないということなのかもしれません。

村上:たとえばラスクルの場合は、公募時の想定時価総額が約400億円、オファリングサイズが180億円を超えていたと思います。個人投資家はどうしても短期売買の傾向がありますので、公開価格での価格最大化、上場後の株価推移を支えるという意味で、機関投資家にしっかりと「支えてもらう」必要性を考えての結果だったと思います。よくどうしたら機関投資家に買ってもらえるのか、という質問を受けますが、単にコンタクトするだけではなく、きちんと彼らの投資対象としての条件を満たしているかどうかが重要だと思います。

小林:全くその通りだと思います。

村上:投資対象として十分魅力的かどうかを検討するにあたり、多くの会社は事業の魅力度を意識します。ただ、投資家はリスクとリターンのバランスを見て投資する生き物。事業の魅力度が反映されるとリターンと同様に、リスクについても相当慎重に分析します。リスクには大きく分けて2種類あります。一つが事業に起因する事業リスク、もう一つが市場リスクです。どれだけ事業が魅力的でも、市場リスクが大きすぎると投資できないことがあります。

朝倉:市場リスクというのはつまり、上場後にも一定の流動性が担保されるかどうかという点ですね。特に機関投資家の場合、保有株式を所定の期間内に確実に流動化できるかどうかによって、投資できるかどうか、判断が分かれますからね。

 ここまで、発行体の視点から見たマザーズの活かし方について話してきていますが、制度設計として、今の新興株式市場については、どう考えていきましょうか。

小林:今のマザーズの形態だと、良くも悪くも小さいIPOサイズにあわせて、証券会社が標準化したメニューを前提に動いていると感じます。逆に言うと、発行体にとっての選択肢が減ってしまっているんじゃないかということです。

村上:上場の手法について選択肢があると考えている起業家は非常に少ない印象があります。スタートアップのエコシステムを充実させていくうえでは、IPOについても、スタートアップ側にとっての選択肢を増やす必要があるでしょう。IPOを機とした成長機会の獲得は、本来、スタートアップにとって大きな武器になり得るわけですから。

朝倉:昨日、あるVCの方と話していたのですが、「いくらユニコーンを作ろうと頑張っていても、バリュエーションが1,000億を超えたところで、受け皿となるそのあとのマーケットが整っていないことにはどうしようもないじゃないか」ということを指摘なさっていました。
 確かにユニコーンを作っていくということは、その後のマーケットの整備と合わせて考えていかないといけないテーマなのかもしれませんね。

*本稿は、Voicyの放送を加筆修正し1/11にSignifiant Styleに掲載(ライター:中村慎太郎)したものを一部改編してお送りしました。