「もしも、がんになったら」「けがをして仕事ができなくなったら」…人生における様々なリスクに備えるのが生命保険。しかし、将来への漠然とした不安をあおられると、人は非合理的な判断をしがちだ。本当に必要な保険商品を選ぶためには、感情と切り離して考えなければならない。消費者の非合理な行動を解き明かす行動心理学をもとに、生命保険の販売手法をひもとく。(清談社 島野美穂)
行動経済学を悪用した
生命保険販売のからくり
近年、ビジネス分野で大きな注目を集めている行動経済学。文字通り、経済学の一種だが、従来のそれとは大きく異なる。
元来、経済学では「人は合理的かつ功利的な判断に基づいて動く」ということを前提に考えられていた。それに対し、行動経済学では「人間は不合理な判断で経済行動をする」という前提に基づいて考えられている。経済学と心理学を融合させ、人の非合理的な消費行動を解明する学問なのだ。
「生命保険の世界には、『行動経済学を悪用している?』と感じる販売手法がたくさんあります」と語るのは、保険コンサルタントの後田亨氏。
「そもそも生命保険は、『万が一、◯◯になったら…』という、歓迎したくない事態について語りながら売られています。不安や恐怖が絡むと、人は正常な判断をしにくくなります。だからこそ、その場で決めず、いったん距離を置いてみるのです。そして、その保険が本当に自分に合っているのかを、冷静に判断しなければなりません。そのヒントになるのが行動経済学の考え方です」