ラブストーリーはもちろん、あらゆるジャンルのドラマでヒットを飛ばしてきた脚本家の大石静氏。ドラマ離れが進んでいるといわれる中、テレビ局はどう変わっていくべきなのか、そして30年間も第一線で活躍してこられた秘訣を聞いた。(ジャーナリスト 横田由美子)
ドラマの視聴者が減った
理由はどこにある?
――3月に放送が終了した「家売る女の逆襲」(フジテレビ、2019年)は、視聴率12.6%で、有終の美を飾りました。1986年に脚本家としてデビューしてから30年以上が経っていますが、数多くヒット作を輩出し、一貫して現場の最前線に立っている印象を受けます。一方、この30年で、テレビドラマをとりまく状況は大きく変化しました。視聴率も昔は20%、大ヒット作なら30%近い数字が当たり前のように出ていた。今、あまりドラマは見られなくなったように思いますが、そうした実感はありますか?
90年代に大ヒット作を連発していた貴島プロデューサーと組んだ「長男の嫁」(TBS、1994年)は平均視聴率24%、向田邦子賞をいただいた「ふたりっ子」(NHK、1996年)は、29%でした。今は、平均して10%台出ればヒット作といわれますね。
視聴者のドラマ離れについては、2000年代に入って、9.11と3.11を経験したことが大きいと感じます。テロの映像を見た人は、作り物のドラマが、ひときわ嘘臭く見えるようになってしまったんじゃないでしょうか。あの事件からドラマ離れは始まったと、私は認識しています。さらに3.11があり、人々は思い切ってものを言うことに躊躇するようになり、ドラマも毒のない曖昧なやさしさにくるまれたものが多くなりました。何をやったら当たるのか迷ったテレビ局は、だんだん既に売れている原作に頼るようになったと感じます。
――原作ものは、すでに読者(ファン)がついているから、視聴者層や数字の予想が立てやすい。登場人物や設定ができているので、広告代理店などにも説明しやすいですし、彼らもスポンサーを獲得しやすい。そうした中、易きに流れているのではないでしょうか。大石さんには、「オリジナル作品」にこだわる、というイメージがついています。
オリジナルしかやらないと決めているわけではありません。ただ、小説家や漫画家にできることは私達脚本家にもできると、なぜみんな思わないのか、なぜ挑戦しないのか、それは不思議です。オリジナルのドラマはテーマの設定から始まり、プロデューサーやスタッフと細部まで何度も話し合い、共に取材をしたり、プロットを考えたりしながら台本になっていきます。
こうした作業を重ねることで、脚本家だけでなく、プロデューサーの力も鍛えられていく。私がドラマを見て育った頃は、ドラマはもっとアナーキーだったんですが、今は作り手が既成の価値観に疑問を持たなくなったと感じます。
鋭いまなざしを持ち、それをエンターテインメントに料理して、オリジナルドラマに構築できる新人脚本家がどんどん出てくるようにならないと、ドラマは衰退すると思います。若手が才能あふれる人達でないと、私が立っている世界もステキじゃないし(笑)。