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恋人だった男に娘を殺された母親は、12年の歳月を経て、初めて刑務所の中にいる加害者へ思いを伝えた。2023年に始まった「心情等伝達制度」によって、被害者や遺族の声を刑執行中の受刑者に届けることが可能になったからだ。だが、届いた“反省”の言葉は、遺族の心を本当に救うものだったのか。※本稿は、ノンフィクションライターの藤井誠二『「殺された側」から「殺した側」へ、こころを伝えるということ』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
血溜まりの中にいたのは
変わり果てた娘の姿だった
マカオにいるはずの娘に何度電話をかけても、電話に出ない。それまで2~3日に一度は必ず電話で話していた。母親の呉恵芳(66歳)があきらめずに電話をかけ続けると、ある時とつぜんつながり、聞き慣れた娘の声が聞こえた。
「寒い」──。
中国語だった。ふいに鳥肌が立った。とっさに、娘は地下室にいるような気がした。同時にとてつもない不安に襲われた。
娘の名を呼んだが、電話はすぐに切れた。たしかに娘の声だった。何度かけ直してもつながらない。
「霊的な話ですよね」と前置きしながら、呉は「後でわかったことですが、その4日前に娘は殺されているんです。加害者は娘の携帯とお金を奪って、すでに日本に逃げてきていました。あれは娘の魂だったと思いたい……」と私に言った。
事件が起きたのは2012年7月。場所は中国領マカオのマンションの一室だった。被害者は呉美樹(当時30歳・日本国籍)。加害者は交際していた日本人の男だった。同じ埼玉県内の地元で知り合った相手で、結婚も考えていたという。
電話の後、娘の安否を確かめるためにすぐにマカオに飛び、娘が購入したマンションの鍵を開けてほしいと地元警察と粘り強く交渉したが難航する。







