「つい先日も韓国の財閥系企業のお偉いさんが訪ねてきた。会社を売ってほしいと言われて、即座に断った」と共同技研化学社長の濱野尚吉は言う。本社は埼玉県所沢市の畑の中にある。小さなプレハブでハイテク企業には見えないが、韓国メーカーの訪問者が絶えない。
彼らの関心は、同社が開発したスマートフォン(スマホ)やiPadなどのタッチパネルの部材にある。既存のタッチパネルはカバーガラスと液晶の間に、ガラスの破損を防ぐための空気が入っている。それが光の透過性を弱め、屋外でディスプレーが見えにくくなってしまうのだが、共同技研化学が開発した特殊な粘着シート「メークリンゲル」を使えば、衝撃に強くなるため、空気を入れなくて済み、画面が明るくなるのだという。
画面の大型化にも対応できる上、液晶以外に有機ELへの応用も期待されている。ユニークな発想と将来性が買われ、2006年から3年連続で「日本発明大賞(考案功労賞)」、09年度に文部科学省の「科学技術賞(技術部門)」などを受賞している。量産準備も整ったため、スマホで稼ぎたい韓国メーカーの垂涎の的になった。
自社工場を見せたら取引が打ち切りに
中小企業の壁を実感
濱野が起業したのは1979年。高校卒業後に上京し、粘着テープメーカーに就職して営業マンになったが、28歳のときに会社が倒産した。「結婚のご祝儀が手元にあった」こともあり、同僚3人で共同技研化学を立ち上げた。
会社員時代は片面テープを販売していたが、濱野は「これからは付加価値があり、加工しやすい両面テープの時代が来る」と確信した。両面テープの工場に間借りして事務所を置き、住宅や自動車の内装材メーカーや印刷会社などを回って両面テープの注文を取ってきては、その工場で委託生産を行った。マーケットに手応えを感じて、1年後に自社生産に乗り出した。