ピック病は人格が変わり、万引きなどを行うことが知られています。写真はイメージです Photo:PIXTA

元妻が万引きで逮捕
しかし夫は驚かなかった

「お父さん、もう私嫌だ、お母さんとは暮らしたくない」

 淳司さん(仮名・46歳)のもとに、娘が泣きながら電話してきた。娘は13歳、1年前に離婚した妻・千鶴子さん(仮名・44歳)と一緒に暮らしている。

「何があったんだ」

 努めて冷静に尋ねる。

「お母さんね、万引きしてたんだよ。○○ストアで、化粧品とパンを取ったんだって。さっき警察から電話があって、おばあちゃんが迎えに行ったよ。

 万引きね、初めてじゃないんだよ。もう何回もやってるんだって。お店の人が『ご近所さんだから、許してきたけど。全然反省してない。ひどすぎるって』、怒って警察に電話しちゃったんだって。『警察に電話する前に、どうしてうちに電話してくれなかったんだ』っておばあちゃん店の人を怒ったんだけど、お母さんが『家にだけは電話しないで』って言ったんだって。私の学校の同級生も、お母さんが捕まるとこ、見てたって。私もう、学校行けないよ。どうしたらいいの…」

 淳司さんは、(ついにやったか)と思った。

 というのも、夫婦が離婚した理由も、千鶴子さんの問題行動だったからだ。

 話は2年前にさかのぼる。仕事からの帰宅途中、近所の住人Aさんが遠慮がちに声をかけてきた。淳司さんの家族は戦後すぐからこの界隈(かいわい)に住んでおり、ご近所づきあいもそれなりにある。地域の行事にはかかさず参加しているし、住民同士、顔を合わせれば挨拶(あいさつ)もする。同年輩の住民同士は、小中学校時代の同級生でもある。気心の知れた関係なのだ。

 しかし、声をかけてきた住人は、言いづらそうに下を向き、口を開いた