TOHOシネマズの値上げに見る映画館の将来像

 ちなみに、東宝株式会社の2019年2月期における決算では、映画興行部門(映画館部門)の業績を以下のように説明しています(東宝は、その他に映画関連事業として製作部門と配給部門を持つ、総合映画会社です)。

・映画館入場者数:4786万6000人で前年度比9.8%増
・営業収入:839億9300万円で前年度比11.0%増
・営業利益:125億8800万円で前年度比29.6%増

 つまり、映画興行部門の業績はかなり良かったわけです。ここからは、業績が良いうちに値上げをしてそれをさらなるサービス向上に回そうとする意図が感じられます。もちろん、それで大きな顧客減になってしまっては元も子もないわけですが、これまで解説してきたような理由から、それほどの顧客減はないだろうという読みがあったものと思われます。

 またあくまで想像ですが、値上げの影響に関してはアンケートで顧客の意向を探ったり、いくつかのシミュレーションも行ったりしていることが想像されます。

 他の大手シネコンの追随については、3月の段階では不透明だったと思いますが、「いずれ彼らも追いかけてくるだろう」という読みもあったのかもしれません。彼らは、話題の映画を上映できるだけの交渉力、集客力がありますし、TOHOシネマズが先陣を切ってくれたことで「いい映画館で見る映画は1900円」という認識が浸透する素地が生じうるからです。

 すでに3Dなど、「鑑賞方法の差」に関しては価格の差別化が起きていますが、数年たてば、映画館そのものの差別化度合いに応じて価格も変わってくるかもしれません。ミニシアター系のテアトルも消費税増税前には値上げをする意向を示しましたが、他の映画館がどのような価格設定で対抗してくるかはまだ不明の部分が大です。今回のTOHOシネマズが先陣を切った意思決定は、その起爆剤になるかもしれないのです。

(グロービス経営大学院教員 嶋田 毅)