「儲からないから値上げするか」「売れないから値下げしようか」。こんなことをしたら、長い目で見るとほぼ間違いなく、ますます売れなくなってしまう。しかし、同じ価格の同じ商品でも、「価格の見せ方」を一工夫するだけで、売れるようになる戦略がある。マーケティング戦略をわかりやすく解説することに定評のあるベストセラー著者・永井孝尚さんの最新刊『なんで、その価格で売れちゃうの?』から一部を抜粋して、今回は「価格の見せ方」を変えるだけで、売上アップに成功した事例を紹介する。
行動経済学が明かす松竹梅マジック
「うーん。松は贅沢かなぁ。でも梅はちょっと寂しいなぁ」
私の大好物は、うな重である。いつも悩むのが松・竹・梅のどれにするか。悩み抜いた末、たいていは竹に落ち着く。
私のように、選択肢が3つあると多くの人は真ん中を選ぶ。行動経済学ではこの現象を「極端の回避性」と呼ぶ。悩み抜いた私が竹を選ぶように、人は違いが判断できないと真ん中を選ぶ習性がある。これは価格戦略でも重要だ。
弁当屋で並弁当(480円)と上弁当(680円)の2種類を販売すると半々売れる。ここに特上弁当(980円)を加えた途端、上弁当(680円)が一番売れるようになる。
実際、「オリジン弁当」を展開するオリジン東秀が2012年当時、幕の内弁当を1種類から3種類(450円、上490円、特上690円)に増やしたところ、490円の「上幕の内」が一番売れ、幕の内弁当の売れ行きは前年比78%増になったという。
このように、同じものでも見せ方を変えることで人の判断や選択が変わる現象を、行動経済学で「フレーミング効果」と呼ぶ。
価格を一工夫する際には、この「フレーミング効果」を活用することだ。
「極端の回避性」もこのフレーミング効果の一つ。「松竹梅」は意外と強力な価格戦略なのである。