「実は、宇佐美さんのことで困っているんです」
「えっ、そうなの?」
「はい、ここ毎朝、電車の到着時間を見計らって改札で私を待ち伏せしていて、仕方なく会社まで一緒に歩いています。非常に迷惑なんです。直接言いにくくて…」

 宇佐美は真紀とほぼ同時期に入社してきた30代前半の男性社員で、もともとは俳優を目指していたらしい。今までまともに働いた経験がないせいか、全く仕事ができない。周囲もあまりのできなさにウンザリしており、同僚からは嫌われていた。

 真紀の相談を聞いた直子は、彼女に同情した。

「それって、ストーカーみたい。仕事もできないくせに、何考えているのかしら…」

 直子は「会社の最寄り駅の改札に毎朝8時30分に待ち合わせして、一緒に会社まで行こう」と提案し、真紀も承諾した。その後、直子は社長にその件を報告したところ、社長も気に掛けておくとのことだった。

遊園地でデートをする
2人の姿を目撃する

 直子が真紀と通勤するようになって10日ほど経った休みの日に、直子は家族と一緒に遊園地へ出かけた。直子がふと前方を見て驚いた。真紀と宇佐美が手をつないで、向こうから歩いてくるではないか…。

「え?どういうこと?宇佐美さんのことを嫌っていたはずでは…?」

 直子は驚き、反射的に物陰に隠れて2人の様子を見た。2人は直子には気付かず、手をつないだまま通り過ぎていった。

 翌日、直子は社長にそのことを話してみた。すると社長も「え?見間違いじゃないの?」と驚きを隠せない。

「見間違いじゃないです。何度も確認しましたから。あの2人、実は付き合っているのかもしれません…」
「じゃあ、なぜ待ち伏せされて困っているなんて言うの?」
「よく分かりません…。もし分かりましたら報告します」