通勤電車で腹痛、オナラ
必死にこらえる毎日
(やばい、あーおなか痛い、なにこれ)
通勤電車の中で孝子さん(仮名・35歳)は焦った。おなか全体が痛い。張っているような気がする。便意をもよおすでもなく、ただみぞおちから下の広い範囲が漠然と痛む。きりきりでもなくズキズキでもない、生理痛とも違う不思議な痛み。
(この頃、便秘だからそのせいかも。トイレで“出せば”治るかな。でも、そんなことしてたら遅刻しちゃう)
迷っている間にも電車は進む。つらいが、我慢できないほどではないのが救いだ。やがて会社の最寄り駅に到着し、人波に乗って車外に押し出され、そのまま歩くうちに痛みは消えてしまった。
孝子さんは産休と育休を終えて復職したばかり。周囲は温かく、残業免除等、子育てにも配慮してもらっている。だが、甘えたくはない。
晩婚化の昨今、34歳で出産し、ワーキングマザーになる女性は全然珍しくはないが、孝子さんの職場では遅い方だった。孝子さんは長いこと、同僚女性たちが子ども最優先で早退したり、優先的に有給が取得できたり、できるだけ緩いスケジュールで仕事しようとする様子を、もやもやした気分で見てきた。
(彼女たちの幸せな子育ては、私のような周囲の犠牲の上に成り立っているのよ。そのへんをちゃんと自覚して、感謝してほしいわ!)
デスクの上の整理もほどほどに、定時で会社を飛び出していくうしろ姿を、冷たい気持ちで見送ってきた。