――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJのチーフコメンテーター
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ドナルド・トランプ米大統領は18日、再選を目指し正式に出馬表明した演説で「破滅的なイラン核合意から離脱し、最も厳しい制裁をイランに科した」として成果を誇示した。そしてそのまさに直後、「偉大な国は終わりのない戦争を戦うことは望まない」とし、中東から「多数の米軍部隊の撤収を開始する」と表明した。
この2つの見解を並べたところに、トランプ氏が目下、居心地の悪い立場に追い込まれている理由がある。つまり、トランプ氏は実のところ望んでいないイランとの戦争へと突入する瀬戸際にある一方、身内の共和党内に自ら反戦感情を高めたこともあり、イランとの戦いに対する国内の支持も限定的にとどまっている。このジレンマにより、トランプ氏は20日夜、報復措置としてイランへの軍事攻撃を承認しながら、攻撃直前に撤回する事態に至った。
トランプ氏は過去2年、相容れない両方を手に入れようとしてきた。前任がまとめたイラン核合意から離脱するとともに、前例のない経済制裁をイランにかけながら、イランが手荒い報復に出ることはないと踏んでいたのだ。イランはこれに対し、軍事行動を激化させるのではなく、核合意の再交渉に応じ、ミサイル開発や中東の代理勢力への支援を制限することも取り決めに盛り込むと目論んでいた。
ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やマイク・ポンペオ国務長官など、トランプ政権内のタカ派は、イランが対話ではなく、武力で反応してきた場合でも、常に対処する構えのようだ。トランプ氏は、事態が悪化するリスクに対し平気ではいられないように見える。
それには妥当な理由がある。トランプ氏は2016年の米大統領選で、米国を中東での戦争へと巻き込んでいった共和党の姿勢を激しく批判することに重点を置き、民主党と同じくらい、党内のエスタブリッシュメント(支配階級)に激しい戦いを展開した。当時候補者だったトランプ氏は、3度にわたる中東での大規模な戦争(1990 ・2003年のイラク戦争および2001年のアフガニスタン戦争)を経て、一般国民の間では厭戦(えんせん)ムードが根強い、とおそらく正確に読んでいた。「これまでにない共和党候補で、大きく変わった党を率いる」とのトランプ氏のイメージは、少なからずこうした姿勢の上に成り立っていた。
またその過程で、トランプ氏は中東への米軍増派ではなく、撤収させるとの構想を多くの支持者が喝采するよう仕向けた。また、新たな衝突を避けたいとの自身の考えを共有する党内の一派を勢いづかせもした。トランプ氏と近いランド・ポール上院議員(共和、ケンタッキー州)はその最たる例だ。ポール氏は、サウジアラビアへの武器輸出を阻止する法案を中心となって上院で承認に持ち込んだ。武器販売は、イランとの武力衝突にサウジを備えさせることが主な目的とされる。
一方、野党・民主党は、核合意を維持することが今でもイラン封じ込めの最善策だとの立場で結束している。そのため、民主党がイランと武力衝突を支持する公算は極めて低い。対イラン戦争をおそらく支持するであろう向きは、少なくとも今のところ、共和党内の一部にとどまっていると言えそうだ。
奇妙なことに、トランプ氏は自信のなさと「衝突なき対峙(たいじ)」を望む点で、実のところ相通じるイラン指導部とにらみあっているのかもしれない。
イランは、簡単には米国の経済制裁には屈しないとの姿勢を示し、経済的な支援を提供するよう米国以外の国に迫るため、何らかの形で攻撃する必要があると踏んでいるようだ。しかし、つい最近まで、双方とも望まない戦いにトランプ氏を引きずり出す事態は回避しようと、かなり慎重に行動を調整しているように見えた。イランの部隊はペルシャ湾地域で複数の石油タンカー船を攻撃したとみられるが、米国の船舶は標的ではなく、米国人の犠牲者も出ていない。
トランプ氏側近は、米国人の死者は出さず、米国の施設を破壊しない範囲で、イランがそのような行動に出る可能性があるとの事実を容認する構えのようだ。イランはまだ経済制裁による痛みを感じ始めたばかりだ。その痛みが広がるのを向こう数カ月は静観し、その後イランを交渉の場に引き出し、譲歩を迫るべきかどうか決定するのが最も賢明な措置だ、と米当局者は考えている。
問題は、イランによる米軍の無人偵察機撃墜が、この相互の暗黙の了解となっている限度を超えた動きなのか、単なる誤算なのかどうかだ。トランプ氏は誤算だったかもしれないとの見方を受け入れようとしているようだ。トランプ氏は米国人に犠牲者が出ていない点に言及。イランに犠牲者が出ることも望んでいないからこそ、米国が軍事行動を撤回したともにおわせた。
そのため米国とイランの双方が引いた一線は、本音では戦争を回避したい大統領によってそのまま放置され、今でも維持されている可能性はある。



