個人保証の意義と問題点
起業や積極経営の意欲を阻害
銀行が中小企業に貸出をする場合、企業に関する情報が十分に開示されていない、企業の信用リスクを正確に把握できない、情報を得るための費用が貸出の規模に見合わないといった問題に銀行は直面する。このため銀行は、中小企業に対する貸出を躊躇することが多い。こうした問題を解決する手段の一つとして、従来から用いられてきたのが、経営者による個人保証である。
経営者による個人保証は、企業が借入金を返済できない場合、経営者が自らの資産を用いて返済するという約束である。資金の貸し手である銀行にとって、個人保証には2つの利点があるため、中小企業向けの貸出を行いやすくなる。
第1の利点は、企業経営への規律付けが働くことである。企業が倒産すると自らの財産も失うと考える経営者ほど、そうした危険に晒されていない経営者に比して、倒産を避けるよう堅実な企業経営を行う。個人保証に規律付けを期待するこうした見方は、日本に限ったものではなく、米国の商業銀行にも存在する。筆者が10年以上前に米国東海岸に所在する銀行にインタビューした際には、担当者は一様に、オーナー経営者が個人保証を提供することで返済意欲が高まる効果を強調していた。
第2の利点は、企業倒産時における貸出債権の保全をより確実にできることである。企業が倒産しても、企業の資産だけでなく経営者自身が保有する資産も返済に使えるのであれば、貸し手である銀行が被る損失額は小さくなる。
一方で、借り手である企業やその経営者にとっては、個人保証を提供することに伴い、いくつかの深刻な問題が生じる。最も大きな問題は、経営者に個人保証を求めることで、起業や積極的な経営を行う意欲が阻害されることである。(州によっては)居宅まで手元に残せる米国と比較すると、日本では経営者個人が自己破産すると手元に残せる財産が少ない。
一度失敗した者に対する社会の厳しい視線とも相まって、個人保証を提供すると、企業の倒産に伴い、経営者が自己破産をし、再起不能な状態に陥る可能性がある。こうした個人保証のコストが事業を始める段階でわかっていると、そもそも起業しようとする者が少なくなるし、起業後も思い切ったリスクテイクをしなくなる。