ハローキティをはじめ、サンリオのキャラクターたちに触れ合える屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)」。今、「“SNS映えしすぎる”テーマパーク」としても話題で、若い女性たちを中心に賑わっています。同時にピューロランドとピューロランドの館長である小巻亜矢氏が、テレビ等で取り上げられ大きな話題となっています。
話題となっている理由は、ピューロランドが笑顔と活気にあふれるようになったのは最近のことで、5年前まではスタッフに笑顔は少なく、経営的には赤字が続く危機的な状況でした。そこから平日1日の来場者を一気に4倍まで増やし、奇跡ともいえるV字回復を果たしたのです。同じ施設、同じスタッフで果たした奇跡の再生の秘密は、スタッフたちのモチベーションと行動を変えた「人づくり」にありました。
 そのきっかけを作ったのは、「エンタメ業界の素人」を自認していた小巻亜矢さん。(株)サンリオに新卒で入社したのち一度は専業主婦になり、その後は化粧品事業など現在の業務とはかけ離れた仕事をしていたのに、サンリオグループ企業へ復帰後にちょっとしたきっかけが転じて、想定外のピューロランド館長に。
その小巻さんはこの6月、ピューロランドを運営する(株)サンリオエンターテイメントの代表取締役社長に就任しました。今回は社長就任と、ここまでのすべてをまとめた『サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、これまでの経緯や今後の豊富について語ってもらいました。

サンリオピューロランドの奇跡を生んだ<br />「人をはぐくむ」組織づくり

「ピューロランドは可能性に満ちています」
と社長に送った手紙が起こした“想定外”

サンリオピューロランドの奇跡を生んだ<br />「人をはぐくむ」組織づくり小巻亜矢(こまき・あや)
株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長。サンリオピューロランド館長
東京都出身 東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1983年(株)サンリオ入社。結婚退社、出産などを経てサンリオ関連会社にて仕事復帰。2014年サンリオエンターテイメント顧問就任、2015年サンリオエンターテイメント取締役就任。2016年サンリオピューロランド館長就任、2019年6月より現職。他に、子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、一般社団法人SDGsプラットフォーム代表理事。

――新卒で入った(株)サンリオを、結婚を機に退社したあと、お子さんの死、人間関係の悩み、がん、大学院での学び。さまざまな紆余曲折を経た小巻さんが、50代になって見つけた残りの人生を捧げたいテーマは、自分自身と折り合いをつけて人間関係の悩みを乗り越える方法を発信することでした。

 ところがその頃、「チケットをもらったからピューロランドに行ってみたけど、残念な感じだった」という話を耳にしました。当時、ピューロランドは長年にわたる経営悪化を指摘されていました。私自身も、1990年にオープンした頃はよく行っていたのに、ここ15年ほど足を運んでいないことに気づきました。

 他人事とは思えず気になった私は、一般客として、ひとりで遊びに行きました。館内はどんよりと暗く閑散としていて、笑顔が少ないスタッフは手持ち無沙汰のようでした。ショップの商品、レストランの食事、施設の老朽化……これでは、人は来ないだろうな。残念ですが、そう思いました。久しぶりに訪れたピューロランドは課題満載でしたが、素人の私が見てもすぐにダメなところに気がつく。課題が明確だということは、良くなる余地が多いということでもあります。

 帰宅後すぐサンリオの辻信太郎社長に手紙を書き、ピューロランドの感想と、目についた課題を簡単に綴りました。そして最後に、「社長、大変です!ピューロランドは可能性に満ちています」と締めくくりました。私はエンタメ業界の素人ですし、自分の手で改善したいとは、まったく思っていませんでした。ただ、大好きなサンリオに入って、退職しても偶然が重なって今もサンリオにいる。それだけに、ピューロランドの惨状を見て動き出さずにいられなかったのです。

迷ったら、挑戦するほうを選ぶ
エンタメ業界の素人がピューロランドへ出向

――辻社長から、どのような反応がありましたか。

 翌日、すぐに呼ばれて。外部の視点でもう一度見てくるように指示がありました。そこで友人やエンタメ業界の知人と視察を繰り返し、私の認識が大きく外れていないことを確信。改めて、視察結果を報告しました。改善点は、A4用紙10枚ほどにまとめました。

 すると、「じゃああなた、やってみる?」……思いもよらないピューロランドへの出向の提案。私はすでに、その後の方向性を固めていました。「少し考えさせてください」といって持ち帰りました。でも結局、悩んでいる時点で「無理です」という性格ではなく、「迷ったら、挑戦するほうを選ぶ」のが、私のポリシーでもあります。

 ピューロランドには課題が山積していましたが、決してスタッフが悪かったわけではありません。たとえば接客の基本を身につけていないのは、適切な教育ができていないだけで、本人たちの責任ではありません。さまざまな要因が複合的に絡み合って、負の連鎖が起きていたのです。

 ピューロランドに赴いた私は、自分の強みを活かせることは何か考えました。出した答えは、「人をはぐくむこと」でした。私が学んできたコーチングや心理学の知識も交えながら、スタッフの意識を変え、職場の雰囲気を変え、やる気を引き出すためにさまざまな仕掛けを取り入れました。

 これは本にも書いたのですが、接客スキルについては朝礼の時間を拡大して短い研修を実施しました。出勤時間がバラバラなスタッフ全員が受けられるように、1日に12回の朝礼を毎日続けたのですが、開始直後から目に見えてサービスの質が上がりました。