「たしかな情報源って、どこなんだ」

〈どこのチャンネルもバラバラ。日本の大学だってのもあるし、中国の研究所の発表というのもあるわ。ただし、固有名詞はなし〉

「そういうのは、たしかな情報源とは言わない」

〈インターネットへの書き込みから広がってるのよ。マスコミは必死で出所を探しているようだけど、まだ不明みたい〉

「どういうことなんだ」

〈誰が書いたのか、どこで書きこまれたのか、いつ書かれたかも分からないらしい。とにかく、すべて不明。分かってるのは、今朝一斉に、世界中にこの情報が流れたってことよ〉

「そのせいで日本は大騒ぎになる。株価は大暴落し、円も近年にない最安値になる。バタフライ効果だ」

〈そうよ。銀行、証券会社が開く時間になれば大変よ。すぐに取引停止になるんじゃない。私はこれから役所にいく。あなたも急いだ方がいいわよ〉

 ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスでトルネードを引き起こす。普通なら無視できる小さな出来事が、わずかな条件の違いでとんでもない広がりを見せるというたとえだ。

「言われなくても分かってる」

 森嶋が半分も言わないうちに電話は切れた。

 理沙はこのことは知っているのか。もちろん知ってるだろう。

 携帯電話に指をかけたが、そのままベッドの上に置いて洗面所に向かった。