役所に着くと、7時すぎだというのにほとんどの者が来ていた。

 全員がインターネットに書き込まれた、「巨大地震迫る」についての話をしている。

「政府も情報の真偽を確かめているが不明らしい」

「時期的にデマだと決めつけられないところにつらさがある。誰だって、もしかしたらと思ってしまう」

「この調子じゃ、銀行の取り付け騒ぎも起きかねない。1回の引き出し金額を最高100万と制限した銀行も出るらしいぞ」

「そういえば、JRや地下鉄もいつもより人が多かった。早めに出社して対策を検討する企業が多いんじゃないか」

「出所はどこなんだ。地震情報なら政府もつかんでるはずだろ。それさえ分かればすべて解決だ」

「調べても分からないから、何も言えないんじゃないか」

 様々な声が飛び交っている。

「しかし、出所が分からないんじゃ、デマに決まってるだろ。警察が動き始めてるって警察庁の友達が言ってた」

「地震情報というより、サイバーテロの一種じゃないか。そうなると、かなり悪質だぜ」

「サイバーテロといっても、こんなに世界的に一斉に流れるってことはなかっただろ。どこかの大組織が動いてるんじゃないか」

「どこかの大組織ってどこなんだ。それこそ、デマじゃないのか」

「アノニマスじゃないか」

 アノニマスは国際ハッカー集団だ。かつて、日本政府などを標的にして、「オペレーション・ジャパン」なるサイバー攻撃を行なったことがある。この時は財務省など政府機関のウェブサイトが不正アクセスを受けて、声明文の書き込みをされたり、閲覧困難な状態になったことがある。

「それはないだろ。アノニマスはせいぜいハッキング程度だ。これはもっと悪質だ」